第29話 最下層・ボススライム
このノリ何度目でしょう。
誰かがぶっ倒れるか不機嫌になって部屋に戻って、その次の日にはいつも通り階を進める。
はい。というわけでやって来ました、四階層。
「……やっぱりありますね」
リークの言うとおり、下に進むといつもの看板が立っています。
今回のお題は何でしょか?
「今回は……」
『さあ!ここは最下層!今回は最初からボスだ!今までのよりも強いから、気をつけてね!』
今回は最初からボスらしいです。その代わりかなり強いらしい。
だが、俺だって強くなったし、そもそもパーティーが最初から強いので、心配は無い。
さあ、張り切って進みましょう。
この階層は大きな空間となっていて、指輪の空間の倉庫部屋のようになっている。
この空間は、さっきまであったマンホールも消え、金属の壁によって完全に囲まれて、逃げ場は無いようだ。
いざとなったら指輪の空間に逃げればいいけど。
そんなことを考えたり、ミルたちとどうでもいい話ばかりして時間を潰しているが、ボスとやらは一向に出てくる気配は無い。
おかしいな?と思って俺が前に進んでみると……
胴から下が完全になくなった。
無くなった下半身は一瞬で生えてきたため、素早く新しいズボンを取り出して穿くと、俺はその場から距離をとった。
次の瞬間には、さっきまで俺が居た場所には黒い炎と光の球体が放たれており、1秒でも遅かったら巻き込まれていたところだ。
その場所からは、カメレオンのように擬態していたと思われる謎の生物が姿を現した。
謎の生物は、全身が真っ白な不定形の存在で、全身がユラユラと、波のように脈打っていた。
それは、ボヨボヨと細胞分裂をするように広がると、先程とは見違えるほどの巨体を持つ生物へと変化を遂げた。
町を飲み込む津波のように高く伸び上がると、それは俺たちに向かって全身を投げ出してきた。
どこに逃げても巻き込まれそうなので、大量の初級魔法を放って肉体を削る。
ミルとリークも特大の魔法を放って敵の肉体を吹き飛ばそうとする。
真理は猫耳少女を肩に背負い、早々に空間へと帰っていったようだ。
レベルカンスト近くの俺たちが渾身の一撃を与えるも、相手に怯んだ様子はない。
むしろ、削るどころか、さらに増えて大きくなっているようだった。
俺の攻撃が効かなかったのは分かるが、ミルとリークの一撃で吹き飛ばないなんてあり得るか?
俺たちは驚いた様子を見せるも、すぐにいつも通りの動きで行動を始めた。
残りの空間を高速で移動しながら、自身の考え得る、ありとあらゆる攻撃を試した。
確かにダメージは与えているようだったが、その瞬間から回復しているようで、全体的なダメージはゼロだった。
やがて、白色の物体がこの部屋全てのスペースを埋めつくす直前、俺たち三人は素早く指輪の空間へと逃げていった。
俺と同じタイミングで帰ってきた二人は、息も絶え絶えといった様子で地面に転がった。
一足先に帰ってきて何かの実験をしていた真理と猫耳少女は俺たちが帰って来たことに気づくと、その実験を中断して俺たちの方を向いた。
「勝てなかった?」
「うん。無理だった」
真理の問いにそう答えると、真理は無表情のまま考腕を組むと、しばらく逡巡した後に言った。
「……確かに、無理があった。かも」
ん?と、地面に這いつくばっていたミルとリークも頭にクエスチョンマークを浮かべた。
なんで?と俺たちの疑問を答えるようにして、さっきからブカブカの白衣を着て実験を再開していた猫耳少女がこちらを向いた。
「それはね!あのスライムがおにいちゃんと同じような状態だからだよ!」
猫耳少女はニパーっと笑いながら、わけの分からないことを言い出した。
何?あれスライム?それが俺と同じ?わけわからん。
俺たちはまたも疑問符を浮かべながら首をかしげると、話の補足をするように真理が言った。
「あの巨大スライムは、自然回復を持ってて、魂が何個もあるから、優と同じ」
なるほど。それなら納得だ。
やはり、今回の敵も1つの肉体に魂が何個もあるようだ。
しかしあのスライム、自然回復いくつ持ってるんだ?
俺がそう考え、口に出す前に真理が答えた。
「あのスライムは、自然回復のSとAが1つ、Bが3つ。Cが12個にDが5、Eが8だった」
単純な自然回復の数で言えばスライムの方が多い。質は俺の方が上だが。
しかし、なぜEの自然回復が8個なのだろうか?
本で読んだのだが、自然回復のEは1000人に1人が持っているらしく、今までの人類から奪ってきたとするなら、相当の数があると思うが。
と、今度はミルがその疑問に答えた。
「自然回復のSの数が足りないのよ。Sなら魂まで回復できるけど、それ以下のランクは肉体、魔力までしか回復できないわ」
へー、そうだったんだ。俺の場合は10個持ってるから大丈夫だな。
「いくつもの魂を無理やり繋ぎ合わせるのなら、同調のSを使うか、Sランクの自然回復を魂の数と同じぐらい持ってないといけないわ」
だから数が中途半端でスキルも質が悪いのか。俺の自然回復なら肉体は完璧に再生するからな。
それに比べ、やつの自然回復はボコボコで、できた傷口から、ただただ新しい細胞を生み出すだけで、元の体の原型なんて留めていない。
人間で表すなら、ぐちゃぐちゃになった元人間の肉塊がどんどん増えていってる感じ。普通にグロいな。
「魂の消滅には時間がかかって、肉体は全て消し飛ばさないと死なないって、今の私たちで勝てるのでしょうか?」
たしかに。仮にもSランクの自然回復が1つはあるのだ。リルのときのようにすぐに消えそうになることはないだろう。
『呼んだかしら!』
呼んでねえよ。お前はまだ寝てろ。
『はあ!何よその態度!せっかく私が助言してあげようと思ってるのに』
お前が考えることなんてどうせろくでもないことだろ。アホは引っ込んでろ。
『アホとは何よアホとは!そっちこそ、碌でもないことしか考えてないじゃない!このロリコン野郎!』
何だと!ちっちゃい女の子について、あんなことやこんなことを考えて何が悪い!妄想の中でなら何してもいいんだよ!
『開き直ったわねこのロリコン!……変態』
誰が変態だこの野郎!
俺がまた1人で百面相を始めると、みんなは呆れたように溜め息をついていたが、ただ1人、真剣な表情(真顔)で腕を組んでいた真理は顔を上げると、俺の方を見た。
「良い作戦、がある」
真理は自信のありそうな顔(真顔)で、フフンと鼻息を荒くすると、金色の瞳を輝かせてそう言った。
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