第28話 女の勝負?
有無を言わさぬ圧力に逆らえず、結局真理とリークを置いて歩き出してしまった。
俺の右手を握りしめるミルの左手は、病的なほどに白く、彼女の非現実的な美しさをより際立たせていた。
俺の視線に気づいたミルは、少し頬を赤らめると、俺の視線に気づかないふりをしたまま無言で進む。
15分ほど経ったあるとき、ミルが立ち止まった。
斜め上を見るミルの視線の先を見てみると、焼け野原となった森のなか、不自然にそこに佇む鳥居があった。
その奥には神社が建っており、古ぼけた木材がギシギシと軋み、今にも壊れそうにしている。
俺とミルはゆっくりと鳥居を通過すると、全身に小さな電流が流れた気がした。
それはミルも同じだったようで、ミルも不思議そうな表情で俺を見ている。
「今の何かしら?」
「分からない」
しかし、この感覚は同調を使ったときに似ている。
何でだろ?と思いながらも神社の前に立つと、見覚えのある看板が突然現れた。
『この鳥居を通過した男女二人、君たちは永遠に結ばれたよ!やったね!二人には絶対に解けない《同調》を使わせて貰った!これで永遠に離れられないね!ハッピーエンド!』
なるほど……え?
「どういうこと?」
「ここに書いている通りなんじゃないかしら」
永遠に解けないって、それはちょっと……良いね。超良い。
俺がニヤニヤと笑みを浮かべていると、ミルが肘鉄を食らわしてきた。
「ほら、そんな気持ちの悪い顔で笑ってないで早く行きましょう」
悪辣な言葉で俺を罵っているが、そんなことを言うミルもニヤニヤと笑っている。可愛い。
「ユウ、あなた目が赤くなっているわ」
「え、マジで?」
ドライアイだからな。仕方ない。
「目が充血してるとかじゃなくて、本当に赤くなってるのよ」
「え、マジで?」
俺がもう一度そう言うと、ミルは指輪から鏡を取り出し、俺の顔の前に突き出した。
その鏡を見てみると、少し長めの前髪から、真っ赤な瞳が覗いていることに気が付いた。
「うわっ!ホントだ!」
マジかよ。これで俺も厨二病の仲間入りだ。
しかし、しかしだ。めっちゃ格好いいと思わない?赤眼だよ?
「なかなか似合ってるじゃない」
俺の真ん前から、ミルが顔を近づけて俺と目を合わせていた。近い近い近い。キスしちゃうよ。
「そ、そう?格好いいの?」
俺がそう言うと、ミルは顔を真っ赤に染めた。
え?ホントに格好良い?
「馬鹿なこと言ってないで早く行きましょう」
ミルは俺から顔を背けて前に進み出した。
自分の顔に自信ないからなー。はっきり言って欲しいなー。
そんなことを考えながらミルの横に並び歩く。
ミルは先程からやけに上機嫌だ。でも、あの二人置いたまんまだから、できるだけ早く終わらせたい。
それからまた15分程歩いて元の場所まで戻ると、開始地点の看板が立っていた場所には、大きなマンホールができていた。
「これで三階層もクリアね」
ミル(と真理、リーク)は何もしていないが、一応はクリアとなったのでよしとしよう。
んー、さっきから何か忘れてるような気がするんだよなー。
俺がそう思っていると、突っ立っている俺の腰に、物凄い勢いで突進してくる生物がいた。
「おにいちゃ~ん!怖かったよー!」
みんなのアイドル、猫耳少女だ。
「ごめん、本当にごめん!完全に忘れてました!」
いや、ホントすいません。普通に忘れてました。
「そういえば、どこに隠れてたの?」
ふと気になってそう聞くと、猫耳少女は目を泳がせながら、しばらく逡巡した後に言った。
「じ、地面に穴掘って隠れてたんだよ!お姉ちゃんたちが暴れまわるから」
なるほど。ここ掘れにゃんにゃんってわけか。すごいな。
「ほ、ほんとだよね!死ぬかと思ったよ!」
逆にあれでよく死ななかったな。
俺たちがそんな会話をしていると、ミルが口を挟んできた。
「ほら、そんなこと話してないで、二人を連れ戻して一旦帰りましょう。流石に疲れたわ」
仲間割れして三人で勝手に暴れまわってたのはどちら様でしょうか?俺が一番頑張ったと思うんだけど?
俺がそう考えていると、猫耳少女が俺の顔を見て言った。
「うわあー!おにいちゃん、目が赤くなってる!カッコいいー!」
ふっ、どうだこの瞳!
「でしょでしょー?」
「ふざけないで」
はい。すいません。
んじゃあ、とりあえず二人を連れてくるかー。
俺がそう思って前を見ると……
「「…………」」
表情の無い、死人のような顔つきの真理とリークが現れた。真理はいつも通りの無表情なのだが、その瞳には生気が宿っていない。
リークは、始めて会ったときのような真っ白な顔で、ゾンビのように歩いてきている。完全にホラーだ。
二人はゆっくりと俺に近づくと、二人同時に拳を放ってきた。
山すらも分断できそうなほどのそのパンチは俺にモロに直撃すると、痛みすら感じないほどに俺の肉体を粉々に砕いた。
ステータス差があると思うんだけど、おかしいなー?
一瞬にして復活した俺は、数分かけてみんなの場所まで戻っていくと、三人はまた殴り合いをしていた。
「抜け駆けなんて酷いじゃないですかー!」
「女の勝負に抜け駆けなんて存在しないわ!」
「……許さない」
魔法すら使用せずに、取っ組み合いの喧嘩をしている三人を外目に、俺と猫耳少女は呆れたように深く溜め息をつくと、ゆっくりと自分の部屋に帰っていった。
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