第27話 第三階層・下
奴をボッコボコにするプランを思い付いた俺は、早速準備を始めた。
といっても、本気で魔力をぶっ放すだけだが。
俺は反射神経の能力を最大まで引き上げ、その状況が来るのを待った。
『あんた、何するつもりよ』
黙って見てろ。
『はあ?黙ってろって、あんたねえ……』
リルが何か言っているが全て無視。俺は勝手にリルに同調を使う。
『ん?なにこれ?ちょっと、あんた今何かした?』
集中、集中だ。
そして、数分が経ったあるとき、
「来た!」
後ろに気配を感じた。魔力からしてミル、リーク、真理のそれとは明らかに違う。
背後に死の気配が迫った。その瞬間、
『ピギャアアァァァァァ!』
『ギガガガガガガッ!』
俺は思いっきり白炎を放つと、俺の中にある魂であるリルと、俺の背後にいた赤ローブの悲鳴が上がった。
これこそ俺が待ち望んでいた状況。
最大出力で放たれた白炎は、俺を中心として半径50メートル圏内、全てを燃やし尽くした。
辺りに残ったのは、荒い息を上げる俺と、体中が真っ黒となった赤ローブだった。
いや、赤ローブじゃないな。今あそこにいるのは、見た目は子供だけど中身は大人な名探偵が解決する事件の犯人だ。下半身がないけど。
某有名漫画の敵キャラモドキと化した赤ローブは、ゆっくりと起き上がると、ユラユラと浮遊しながら近づいてきた。
そいつは、瞬間移動も使わずに俺の近くまで接近すると、おもむろに殴りかかってきた。
ゆっくりと放たれたその拳に力は入っておらず、全身の筋肉は使い物にならなくなっているようだ。
俺は少し悲しく思いながらも、元赤ローブに手を伸ばし魔法を放った。
虫の息だった赤ローブは、一瞬にして塵となると、魂すら残らずに消えた。
ふう、スッキリした。
俺が手をパンパン払いながらミルたちのもとへ歩き出すと、魂の消費から回復したリルが大きな声で文句を言い始めた。
『あんた!いきなり何するかと思えば、白炎使うんじゃないわよ!おかげで死ぬかと思ったわ!』
はあ?知らねーよ。意味の無いときに使うお前よりはマシだわ!
『それとそれは違うでしょ!』
お前のそれこそ違うだろ!
俺たちがそんなくだらない争いをしていると、遠くの方で鳴っていた戦闘の音が止んだ。
「あ、決着ついたんだ」
長かったな。2時間ぐらいずっと戦ってたんじゃない?
俺が急いでその場へ向かうと、そこにいたのは、腕を組みながら悠然と佇むミルと、荒い呼吸でミルを睨み付けている真理とリークがいた。
俺はミルのもとまで歩いて行こうとすると、ギャースカ騒いでいたリルが、真剣な声音で言った。
『いいえ!戦いはまだ終わってないわ!むしろここからよ!』
あれ、どう見てもミルの一人勝ちじゃない?
『そんなことないわ!見て!あの2人の瞳を!あの目はまだ死んでないわ!』
そう言われて真理とリークを見ると、真理はいつも通りの表情だが、金色の瞳は爛々と輝いている。
あれ、どう見ても戦いを楽しんでるようにしか見えないんだけど?確かに死んではないけど、逆に生き生きしすぎてない?
一方リークは、ユラユラと波のように揺れる碧眼をヒュンッと糸のように細めると、杖を取り出し天に突き上げた。
こっから第二ラウンドの始まりか。
最初に動き出したのは真理。一瞬にして最高速度まで加速し、腕を組みながら王者の貫禄を見せつけるミルへ突撃する。
ミルは真理の方に手を広げると、余裕の表情で獄炎を使用した。
いや!戦闘とはいえ、仲間内での勝負に獄炎は使うなよ!本気出しすぎ!
それに対し真理は、飛んできた黒炎を流水のような流れる動きで回避し、真正面からのものはスキルで吸収していく。
真理とミルが相対するその瞬間、天空から大きな光球が放たれた。
それを放ったのは言わずもがな、漁夫の利を狙ったリークだ。
リークはそのまま秘密裏に設置を終えた罠を発動させると、真理とミルの二人は、一瞬にして木の根に巻き取られた。
ノーガードの二人に、リークは光球を連打する。しかし、力業でそれを破った真理と、黒い焔で木の根を焼き払ったミルは、恨みを晴らすようにしてリークに襲いかかる。
それすらも予想していたリークは、自分に近寄った二人から一歩後ろに下がる。
すると、さっきまでリークがいた場所に足を付けた二人に、何重もの光の輪っかが縛りつけられ、金縛りのように固定させた。
その光の輪っかは物理ではもちろん。魔法すらもほとんど無効化するようで、二人は必死に踠いている。
今度こそ完璧に動きを封じたリークは、そんな二人に無慈悲な攻撃を放つ。
天空にはたくさんの光球が浮かびあがっており、周りには大量の木の根。
二人は絶対絶命。
のように思われた。
ミルと真理は、抵抗できない状況の中、口元をニッと吊り上げると同時に動き出した。
下を向いて俯いていたミルだが、急に顔を上げたと思うと深紅の瞳は深淵のような黒色になっていた。
真っ黒な瞳で辺り全体を見回すと、自分の周りにあった木の根と光球を分解し、黒い羽を出現させて空に飛び上がった。
真理は、手を拘束していた光の輪を、一本だけ解除すると、どこからか現れた大剣を右手に持ち、強く握りしめた。
すると、真理を拘束していた全ての光の輪は一瞬にして魔力の粒子と化し、その大剣に吸収された。
そして、眩い光を放っている大剣を片手で振り回すと、周りの木の根をバラバラに切り刻んだ。
リークは、そんな二人の変化に驚きつつも魔法を再使用し、真理とミルの二人に放った。
二人は気にした様子も見せずに各々の攻撃を始める。
ミルは黒色の翼で空に羽ばたくと、天空より大量の黒炎を放ち、真理は両手に持った大剣を、力を溜めるようにして体の後ろで構えると、溢れんばかりの光を放つそれを、真下からアッパースイングした。
ミルは大きな黒球を真下に放ち、リークは自分の周りにあった大量の光球を高速で発射。真理は大剣のアッパースイングにより、大きな衝撃を放った。
やがて、それらの攻撃は一点で重なると、物凄い爆風と魔力を撒き散らしながら空気を震わせた。
しばらくして、ゆっくりと煙が広がり、それに続くようにして大気を震わせるほどの衝撃が嘘だったかのような静寂が訪れる。
3人は煙に包まれてよく見えない。
いったい誰が勝ったんだ?
静寂が続く中、それを壊したのは、羽が大きく羽ばたく音。
その音とともに視界が晴れ、次に瞬きをすると、そこにいたのは、女王様然とした振る舞いでリークと真理を見下す、ミルの姿があった。
リークと真理は地面にひれ伏しており、リークは気を失い、真理はいつもの無表情でゴホゴホと咳をしていた。
1人その場に立っていたミルは、ゆっくりと俺のもとまで歩いてくると、深紅に戻った瞳で俺を見ながら言った。
「さあ、行きましょう」
俺と手を繋ぎ、上機嫌な笑みを浮かべながら歩き出すミル。
俺はその場にから動かずに、不思議そうな表情を浮かべたミルを呆然と見つめると、ずっと疑問に思っていたことを言った。
「そういえば、何のために戦ってたの?」
俺がそう聞くと、ミルはあっとしたようにで口を半開きにしたが、やがてキュッと口を結ぶと、真剣な表情で言った。
「女には、負けられない戦いがあるのよ……」
「あ、そう」
俺が気を抜けた返事をすると、ミルはやれやれといったように首を振り、倒れ伏した二人を見た。
「私の勝ちね」
ドヤ顔でそう言うと、ウキウキとした足取りで進み出した。
事態が飲み込めない俺を無理やり引っ張ると、焦土となった森のなかをゆっくり歩き出した。
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