第25話 神の巣窟・第二階層

 大量のモンスターと、精霊と竜の融合体である白炎竜を相手にして、1日中寝込んでいた俺だが、一晩寝ると完全に回復した状態でいた。


 指輪の空間から出て、みんなで次の階層へ入ると、目の前には文字が書かれた木製の看板があった。


 その看板にはこう書かれていた。


『神の巣窟へようこそ!最深部には僕の部屋があるよ!攻略者には豪華プレゼントが!頑張ってね!by神』


 このダンジョンは神の巣窟っていうのか。神の隠れ家なのに入口がマンホールってどういうことよ。


 ミルたちは文字が読めていないようで、首をかしげながらその文字を見つめている。


 そんな中、いつも通りニコニコと笑っている猫耳少女が言った。


「神の巣窟、だって!最深部には部屋があって、クリアしたらプレゼントが貰えるらしいよ!」


 その言葉を聞いたミルたちが、驚いた様子を見せて何かを言いかけたが、その前に口を閉じた。


 この子に常識は通用しない。みんなそう思ったのだろう。


 謎の多い子だが役には立つし、何より放っておけない。ついでに可愛い。そして可愛い。


 おっと、話がそれた。今はダンジョンの攻略を目指そう。


 色々とツッコミたいどころは多いが、それよりも気になるのは、神(自称)からの豪華プレゼントだ。


 この看板がイタズラとかではないのなら、かなり期待が持てる。伝説の武器とか貰えるかもしれない。


 そして、神本人についてもだ。おそらくだが、こいつがミルを封印したり、リークやリル、そしてミルの妹を神獣に変化させたのだろう。


 だって一階層のボスが、火竜と融合したリルだったからな。確定していいだろう。


 そいつは、俺やクラスメイトたちをこの世界に召喚させた聖エリクとやらかもしれない。


 もしそいつがこの一件の犯人だとしたら、戦闘は避けられない。


 ここの神がこの一件の犯人ではなかったら、精霊の魂を操る事件と俺たちの元の世界へ帰るための協力を頼もう。


 ここでの行動は、俺たちの冒険に関わる重要な選択になるだろう。


 俺たちは視線を交わして互いに頷くと、みんなで進み出した。


 たくさんの曲がり角を進み、かなりの時間が経ったが次の階層への扉はない。

 

 おそらくこの階層は、迷路となっている。


 ミルが飛んで上から進もうとしたが壁が高くなって空中での移動は不可能。


 みんなで攻撃をしてみても、すぐに穴が塞がるため攻撃の意味はない。


 壁全体に魔力が宿っているようだった。


 地面に印をつけてみたり、歩いた後の道に目印となるアイテムを置いたりしてみたが、次に通ったときには無くなっていた。


 ここまで攻略が長引くと流石にイライラしてくるようで、俺も含めたほとんどが死んだ目をしながら歩いているときだった。


『イラつくわねー!こうなったら、えい!』


 俺の中のリルが白炎を放った。


 俺の魂がいくらでも回復するからって勝手に使うなよ!


『そんなの知らないわ!フルで活用してもなくならないのなら使ってもいいでしょ!』


 そういう問題じゃねえんだよ!


 俺たちが言い争いをしていると、不意に地面が揺れた。


 いや、地面だけではない。壁も、この階層全体が揺れてるんだ。


 そう思ったところで、俺は1つの可能性に気づいた。


 この階層全体がモンスターなのではないか?ということにだ。


 いくら進んでもゴールに辿り着かない。目印をつけても消えて無くなる。そして、壁全体に魔力が宿っている。


 階層全体が地震のように揺れている中、ビクビクと震えながら地面にしがみついていたミルに言った。


「ミル!もしかしたら、この階層全体がモンスターかもしれない!俺の白炎とミルの獄炎で全体を攻撃するんだ!」


 俺がそう言うと、ミルは一瞬にして起き上がると、手の平から特大の黒炎を放った。


 地面は揺れを増しているが、泣き目になりながらも必死に黒炎を放ち続け、4分後には揺れも収まり、巨大な壁も消えた。



 ……俺たちが立っている地面と共に。



「ひゃああああああ!」


「わああああぁぁぁ!」


「…………」


 上から順にリーク、猫耳少女、真理。ミルは白目を剥きながら気絶している。


 真理は猫耳少女を掴み、俺はミルをお姫様抱っこすると、衝撃を抑えて地面に降り立った。


 辺りは真っ暗な空間で、何も見えない状態だった。


 俺は光属性の初級魔法で小さな灯をつけると、周りには大量のアンデッドがいた。


 ナイスなタイミングで起きてきたミルは、大量のアンデッドたちを見ると……


 ぶちギレた。


 プツンと、何かが切れたような音がすると、ミルは漆黒の翼を出現させた。


 その翼を大きく広げると、俺たちの頭上に大きな黒球を浮かび上がらせ、そのまま地面に向けて放った。


 その黒球は俺たちを無視して発射されたが、咄嗟に使ったリークの光の障壁によって守られた。


 俺たちの周りでは、魂すら焼き尽くす黒い炎に直撃したアンデッドたちが、ボロボロと崩れながら地へ還っていく。


 一瞬にして全てのアンデッドを撲滅したミルは、線が切れたかのようにして黒い翼を解除するとまっ逆さまに地面に落ちていった。


 俺はミルをゆっくりと腕に抱え顔を見ると、すうすうと可愛らしい寝息を上げながら目を瞑っている。


 そんなミルを微笑ましい表情で見ながら、指輪の空間へと戻っていった。

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