第22話 VS白炎竜
白い炎が俺の全身を包み込んだ。
俺の肉体は丸焦げになったが、白炎から出てくると、一瞬にして再生した。
……服は再生しなかったが。
それはともかく、この白竜は何なんだ?
尋常じゃない熱量を放つ白炎。半透明の肉体から溢れ出ているそれは、自らの魂すらも燃やしているかのように見えた。
考えても仕方がない。戦ってみないと何が起こるか分からないからな。
白竜から100メートルは離れている。それだけ強い威力だったのだろう。
あの白炎、妙な違和感があった。魔力が籠りすぎている。
あれだけの熱量を発するにはかなりの魔力が必要だが、流石に無駄が多すぎる。
とりあえず魔法で様子を見よう。
俺は中距離からあらゆる属性の初級魔法を放ってみたが、ダメージが通っている様子はない。
今度は接近して殴りかかろうとしたが、その前に細長い尾に吹き飛ばされてしまった。
真正面から突撃してみるも、巨大な爪によって吹き飛ばされてしまった。
ヤバイな。このままじゃジリ貧……にはならないが、あいつが寝るまでずっと戦闘になる。
ダメージを与えたいところだが、俺の攻撃はいずれも効いていない。
詠唱をする時間はないし、ミルと同調して多重術式を使わないと初級魔法よりも威力がでない。
白竜は、あれほどの魔力を使用しているにも関わらず、全く切れる様子がない。
相手は面倒な小蝿を殺したいが、俺が死ぬ様子はなく、俺も早く勝負を決めたいが有効となる攻撃手段がない。
俺はその後も魔法を放ち続け、白竜は俺を何度も殺しかける。その繰り返しだった。
しかし、その繰り返しの中で、俺は気づいたことがあった。
やつの体から発せられていた白炎が弱まっている。開戦直後は轟々と溢れでるように燃えていた炎は、今や風前の灯といった様子だ。
俺は今がチャンスだと思い、白竜に正面から挑んでいった。
爪が来ても、尾が来ても絶対に避けられる。
《動体視力》と《身体強化》、そして《反射神経》を使ったからだ。
急に速度が上がった俺に驚きながらも、白竜は怯まず突進してくる。
そのまま爪で攻撃してくるだろう。
俺は最接近したときに、特大の水属性魔法を放つべく、そのまま白竜へ突撃する。
双方、勢いをつけたまま攻撃を放つ。
そのときだった。
爪で攻撃してくると思っていた俺は、白竜の手元に集中しすぎていた。
だが、白竜は口を開いた。しかし、ここからブレスを放つには時間が足りない。このまま顔面に魔法を撃ち込んでやる。
そう思ったとき、白竜は大きな口を開いたまま、勢いを落とさず俺に突進し……
大きな口を、ガチンと大きな衝撃波を生みながら閉じた。
動体視力と反射神経によって、反応速度が極限まで高められていたおかげで、急いで風魔法を放つことができたが、油断しきっていた俺は下半身が持っていかれた。
俺は風魔法の余波によって後方に飛ばされながらも下半身を回復すると、急いで距離を取った。
今のは流石にまずかった。相手に俺を殺す手はないと思い込んでいた。
俺の回復能力でもあの豪炎の中にずっと居続けるとなると、死ぬかもしれない。
そう考えたとき、大量の汗が流れ出た。
死を間近に感じたのは、ミルと出会ったとき以来だな。
呑気なことを考えている俺だが、何故か心は震えていた。
思えば、最近の俺は自分に死などないと思い込んでいた。
命の危険はあっても死の危険はない。だから、ミルと出会ってからの俺は、どこか自分のことを客観視していた。
そんな中、急に訪れた死への恐怖は、俺の魂を燃え上がらせた。
あいつの肉体は半透明のまま。むしろどんどん透明になってきている。
自分の魂を削りながら戦っているあいつに比べて、今の俺はどうか?
情けない。命を懸けた勝負を舐め腐っていた。神か何かにでもなったつもりだった。
だが今は違う。今一度再認識した。俺はいつも身近に死が迫っていて、いつ死んでもおかしくないということを。
不死身?そんなものないね。人間ならいつかは死ぬんだ。本当の不死身になってしまえば、肉体は死なずとも精神が死んでしまう。
そう思ったとき、俺は不思議と笑っていた。
楽しい。いつ死んでもおかしくない状況が楽しい。そんな自分がおかしい。
俺は無意識のうちに走り出していた。
全神経を集中させ、全スキルを極限まで高めた状態で走り出す。
俺は、全裸であったが、唯一残っていた空間の指輪からとあるアイテムを取り出すと、そのままそれを飲み干した。
そのアイテムとは、猫耳少女特製、《ソウルフエール》だ。
その名の通り、魂が増えるアイテム。
俺は20個となった魂の、その半分の魂に命令を出した。
すると、10個の魂は膨大な魔力へと姿を変えた。
俺が使用した魔法は闇属性初級魔法の一つ。その能力は、魂を削って魔力を生み出し、それを闇属性の魔法として打ち出すもの。
魂を削るということは、当然その分の魔力量が減る。
ほとんどの魔術師が使用しない魔法だが、俺はそれを躊躇いもなく使った。
2倍に増えた魂は、時間経過でマナとなって空気中に戻っていく。
なら、最初からぶっ壊してぶっ放そうというわけだ。
10個もの魂を贄として発動したその魔法は、巨大な黒球となると真っ直ぐ白竜へ飛んでいった。
その黒球に直撃した白竜は大きな叫び声を上げると、真っ白な炎を撒き散らしながら小さな球体へと変化した。
あれはおそらく白竜の魂だろう。
俺はその魂に手を伸ばすと……
闇魔法を使用した。
『ギュウエエエェェェ!』
頭に直接響くような声が発せられた。が、それは周りに響いていない。
その声は、俺の頭の中で響いているからだ。
『あんた何してくれんのよ!ようやく死ねると思ったら急に魂取り込んで!何様のつもりよ!』
キンキンと耳に響く声でさっきから叫んでいるこの声は、おそらくさっきの白竜の声だ。
『竜なんかと魂くっつけられたと思ったら、今度は人間なんかに取り込まれるなんて。最悪!』
竜と魂をくっつけられた?それってどういうこと?
俺がそう考えると、さっきの声が返事をしてくれた。
『私は元々光の精霊だったのよ!昼寝してたらそこら辺の火竜と魂を融合されて、気づいたらあんたに取り込まれてたのよ!』
そりゃ災難だったな。それより、魂を融合されたって、どっかで聞いた話だな。
『でも、助けてくれたことには感謝するわ。ありがとね!』
感謝している感じは全くしないが、助けたっていったいどういうこと?
『なに?もしかして、何も考えずに吸収しただけなの?あんた分かってなかったのね!このヤロ~!』
分かんない。分かんないないけどとりあえず……
「寝かせて」
俺はそう呟くと、キンキンとした叫び声が響く中意識が途絶えた。
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