三章 神の巣窟
第21話 未知への入り口
今日は、待ちに待った地下ダンジョンを攻略する日。昨日の夜は小学生の遠足の前日のようにワクワクして眠れなかった。
毎度のごとく真理にテレポートを頼み、前回同様マグナ湖へやって来た。
昔は美しかったらしいマグナ湖水は、俺たちが水を枯らした上に、遺産の発掘のため地面を根こそぎ掘っていったせいで、今となっては見る影もないが、元々汚染されているのでそれはノーカンだ。
しかし、森に囲まれた溜め池のようになっている大きな水溜まりに、ファンタジー世界には不似合いな、3メートルぐらいの鉄蓋が置かれていた。
「あれ、何の蓋でしょう?」
リークが首をかしげながらそう言った。
リークのいうあの蓋は、誰がどう見ようと近所にあるマンホールであった。ただし直径3メートルの。
何でやねん!とツッコミたい。しかし、そんな俺の感情を理解できる人はここにはおらず、ミルとリークはもちろん、真理ですら鉄蓋の正体を知らなかった。
しかし、まだ子供の、しかもこの世界の人間である猫耳少女がその正体を答えた。
「あの蓋はマンホール?だよ!」
「そうそうマンホールだよね……って何で知ってんの!?」
少女は首をかしげながら俺を見ている。
逆に何で知らないの?って顔してるけど、この世界の人がマンホールを知るはずがない。
「誰かに教えてもらったの?」
「ん?マンホールはマンホールだよ?」
くそう!話が通じねえ!そんな姿も可愛いじゃねえか!
開始前からものすごく疲れたような気がしたが、気を取り直して進もう。
進み出した俺に、4人が続く。ミルとリークは興味津々といった様子で瞳を輝かせている。
真理はいつもの無表情だが、どことなく表情が柔らかいように見える。俺の気のせいではないはずだ。
そして最後に猫耳少女だが……この子はいつも通り楽しそうにしてるからいいや。
マンホールの近くに佇むと、真理が何かの魔法を使用した。
すると、猫耳少女の周りが、半透明な膜に覆われた。試しに殴ってみると、俺の拳が痛くなっただけなので、効果は折り紙つきだ。
そして、今度こそ出発。
俺が一番最初に進み、蓋の下を覗き見ると、そこには大量のモンスターたちが蠢いていた。
俺がその光景に絶句し固まっていると、俺の様子を見たミルとリークもその中を覗く。
「「うわぁ」」
ですよね。そうなりますよね。
一方、真理と猫耳少女はいつも通りの様子で下を覗いていた。
しかし、大量のモンスターの蠢く様を見ても別に気にした様子はなく、その隣の猫耳少女もいつも通りだった。
真理がモンスターたちを、ジーッと見つめていると、不意に俺の方を見ると言った。
「優、レベル上げ、頑張って」
そう言うと、半開きになっていたマンホールの下に俺を突き飛ばした。
え、ちょっと待って。この数を俺1人で?無理無理絶対死ぬ。
「誰でもいいから助けて~!」
モンスターの群れに落ちていく中、俺が落ちてきたマンホールの方を見ると、4本の腕がサムズアップをしていた。あいつら、助ける気ゼロだな。
文句垂れてても仕方がないし、とりあえず初級魔法ぶっ飛ばすか。
そう思いながら、火水風土の初級魔法を全方位に放ちながら着地する。
今ので30匹は倒しただろうが、少なくとも5000体以上はいたから、1秒10体としたときに10分近くはかかる。
ちょっとカッコつけながら魔法を放っていたのだが、少し余裕がなくなってきた。
5分くらい経ったんだけど、敵が減る気配は全くない。むしろ多くなっている気がする。
10分経過。8分くらいで終わる計算なのにおかしい。
これは何かが起きている。しかも敵も強くなってきた。最初はデカイ虫が多かったのだが、今は獣系のモンスターが多い。ダルい。
15分経過。流石に気づいた。モンスター増えてるわ。
さっき倒したやつまだいるなーって思ってたら、それが何体もいるんだよ。しかも敵が強い。
なんか心折れそうになってきた。
20分経過。ガチで余裕がなくなってきた。
今までは攻撃くらうことなかったのに、今になってようやく喰らい始めた。すぐに回復はするが痛いもんは痛い。
RPGの主人公、今まで何回も死なせまくってごめんなさい。次から気をつけるから助けてほしいです。
30分経過。さっき死にかけた。
象みたいなやつが20体同時に体当たりしてきた。リンチだ。それは今更だが。
俺が吹っ飛んだ瞬間に集団リンチとかタチが悪い。一瞬で回復して皆殺しにしたがな。ざまあ見ろ。
1時間経過。敵が……強いです。
死にかけることなんてザラにある。自然回復がなければ、死にゲーの主人公より死んでるはずだ。
ミルたちは今頃、昼飯でも食ってんのかなー?あっ、狼さん痛ーい……ぶっ殺すぞオラァ!
ああ、神よ。誰でもいいから助けて。
2時間経過。
満身創痍とはまさにこのことだろう。身体中の服が破れ、肉体は……ノーダメージ。
俺、多分不死身なんじゃね?そう思うぐらい死にかけたが、絶対に死なない。
もうどんな敵が来ても勝てるわー。
無意識で初級魔法を放ち続けていると、周りに敵はいなかった。
勝った!俺は勝ったんだ!
そう思いながら指輪の空間に帰ろうとしたときだった。
「ビジャアアアアァァァァ!」
そんな鳴き声とともに、ズドンと大きな衝撃が鳴り響く。
恐る恐る後ろを向くと、そこには、真っ白なドラゴンが鎮座していた。
そのドラゴンはゆっくりと俺の方を向くと、大きな口をあけ……
真っ白なブレスを吐き出した。
ブレスが目前に迫る中、俺は回避をする素振りすら見せぬまま、その白炎に飲み込まれた。
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