第17話 ランク上げ・中

 冒険者になってから、たった二時間でCランクまで上がった俺たちは、受付嬢の説明を受けていた。


「Cランク以上になると、パーティーの名前を決める義務があるのですが、いかがされますか?」


 名前か。急には考えられないよな。


「ミルたちはどうする?」


 と聞いてみたが、案の定俺に任せるとのことだ。


 まあ、適当に考えたやつでいっか。


「それじゃあ、黒炎の覇者で」


 黒炎の覇者!なんて厨二病っぽいんだ!


「分かりました。黒炎の覇者ですね。はい、登録完了しました。討伐クエストの達成方法は、モンスターリストに書かれている、討伐認証部位を持ってくれば成功となります。もちろん、対象をそのまま持ってきても構いません」


 なるほど、戦場で人を殺したときに、その証として耳を切り取っていくのと同じようなもんか。


「討伐依頼は、ひとつ上のランクまで受注できますが、それはAランク冒険者までです。なので、Sランクの依頼を受けるのはSランク冒険者しかできないのでご注意を」


 今の俺たちのランクはCだから、ひとつ上のBまで受注できるってことか。


「あ、依頼って同時に何個も受け付けられますか?」


「はい。一応何個でもできますが、特殊なクエストではないかぎり、依頼を受けてから3日以内に達成しないと違約金が発生しますのでご注意ください」


「分かりました」


 オーケオーケー。この分だと2日もあればSまでいけそうだな。


「じゃあ、どの依頼受けるか決めるか」


 そうして、依頼板に向かう。


「Bランクの討伐クエストで、できるだけ近場に発生するモンスターのクエストがいいよね」


「でも、遠くに行って、強いのを数体、倒すのもいい」


 そうなんだけど、歩くのがめんどくさいというか……


 そう考えていると、真理はスンと鼻息を荒くしながら俺の方にピースを突き出した。


「大丈夫。私、空間転移、テレポートできる」


 まじか!三島万能すぎだろ!


 俺が驚いた様子で真理を見ていると、無表情のまま、甘えるように俺に抱きついて言った。


「頭、撫でてほしい」

  

 よーしよし、と優しく頭を撫でていると、ミルにジト目を向けられた。リークはニコニコと笑っている。


 俺は話を変えるようにゴホンと咳払いをすると、とあるクエストを見て言った。


「これ、良さそうじゃない?」


 俺が指を指したのはBランクの討伐クエスト、墓場の亡霊の撲滅だ。


「これならミルが獄炎使えば余裕じゃない?」


 俺はミルを見ながらそう言うと、ミルはブルブルと震えながら顔を真っ青にしていた。


「ん、どうしたミル?お腹空いたの?」 


 冗談でそう聞いてみるが、真っ青に震えながら何の反応も示さない。


「ユウさん、ミルはゴーストとかアンデッドとかが大の苦手なんですよ」


 と、リークが教えてくれた。


 ミルは無言のまま、コクコクと必死に頷いている。


「そっか。じゃあ止めとこう」


 俺がそう言うと、ミルは安堵の溜め息をはいて言った。


「だって、あいつら、何考えてるか分かんないし、急に走り出すじゃない。ああいうの、本当にやめてほしいわ」


 と、不機嫌そうな表情で言った。


 アンデッドとかゴーストって悪魔の配下みたいなもんじゃないのかな?


「あ、これなんてどうかしら?」


 アンデッドとゴーストの恐怖から立ち直ったミルが指したのは、湖の蒸発、そして浄化をするという、謎のクエストらしい。


 この依頼、普通の冒険者には絶対できないだろ。この依頼出したやつは……領主?なんで領主がこんなことを?


「なるほどです。ここの領主のご先祖が残した遺産が埋められているというマグナ湖には、瘴気が立ち込めていて入れない。湖の水の蒸発と瘴気の浄化に成功したものは、そこの遺産の半分を与える。成功によって手に入るギルドポイントは50000ですか」


 リークがそう説明した。


 ギルドポイントが50000ということは……ぴったりAまで上がる!


「ミル、リーク。これできる?」


 俺がそう聞くと、二人とも自信満々に頷き、張り切ってカウンターまで持っていった。


「じゃあ真理。マグナ湖までのテレポート、お願い」


 その言葉を聞いて、真理は片手を突きだしサムズアッブすると、目を瞑って何かに集中しだした。


 すると、ミルとリークが戻ってきて、手には判をもらった依頼書を持ってきている。


「受注してきたわ。で、真理はテレポートできるって?」


「うん。できるみたい」


 数十秒ほど経つと、真理は目を開き俺に手を差し出してきた。


「みんな、手、触って」


 真理が差し出した手を握り、もう片方の手でミルの手を握る。


 リークは舌打ちをしながらもう片方のミルの手を握ると、その瞬間、視界が切り替わった。


「転移、成功」


 真理はそう呟くと、俺に抱きついてくる。


 ミルは呆れた表情で溜め息をつきながらも、池の水を蒸発させるべく、手の平に黒い炎を浮かべさせる。


 周りは森林に囲まれており、目の前にある大きな湖の水上には、黒い瘴気が立ち込めている。


 リークは何もない空間から木でできた杖を取り出しその杖を振ると、真っ白に光る、大きな球体を出現させた。


 リークがその球体をすっぽり湖に嵌めようとした瞬間、何かの大きな鳴き声が聞こえた。


『キュエエエエェェェェ』


 次の瞬間、湖から現れたのは数十メートルほどの大きさの蛇のような魔物だった。

 

 細く、長い肉体からは、黒い瘴気が流れ出ている。  


「やっぱりね!当たりだわ!」


 ミルはそう言うと、手の平に浮かべていた黒炎をその魔物へ向かって放ち、リークは押し潰すようにして大きな光球を叩きつけた。


 湖に大きな衝撃が走った後、水上には体が欠けた蛇の魔物がいた。


「え?何が起こった?」


 俺は状況を理解できないまま湖に近づくと、後ろにいた真理が言った。


「あれは、水死竜。死んだ水竜が、アンデッド化した魔物」


 真理が説明していると、ミルとリークが戻ってきた。


「依頼の内容を聞いたときから薄々気づいてたのよ。力試しに行った魔術師たちが帰ってきてないとか、そういう報告があったらしいわ」


 そうなのか。でも、ミルってアンデッド嫌いじゃなかったっけ?


 そんな俺の表情を見てか、嫌そうな顔をしたミルが言った。


「人型のアンデッドが嫌いなのよ。急に変な動きするから」


 そう言いながら、遠くの湖に炎を放つ。器用なことするなあ。

 

 1分も経たぬうちに、湖の水を全て蒸発させ終えると、残った瘴気をリークが浄化させた。


「終わったわよ。早く報告に行きましょう」


 ミルはそう言うと、俺の手を繋いだ。


 そして、すぐさまリークも俺の手を掴み、嬉しそうな表情で微笑んでいる。


 真理は無表情のまま俺を見ると、俺の肩を掴み……


 バキッ。


 肩に強い衝撃が走ったと思った瞬間、ギルドの中に転移していた。


 真理は、俺の肩から手を離すと、無表情のまま俺の顔を見て、腕を絡ませた。


「もう離さない」


 そう言ってミルとリークを一瞥すると、俺を引っ張って歩き出した。


 力強すぎない?さっきバキッて聞こえたんだけど気のせいかな?


 考えても仕方のないことなので、何も考えないまま流れに身を任せていると……


「おお!あなた方が湖を湖の瘴気を払って蒸発させたのですね!ありがとうございます!」


 目の前から男の大きな声が聞こえたと思うと、俺たちに頭を下げる、眼鏡の若い男性がいた。


「あ、すいません。挨拶が遅れました。私の名前はループ・リ・フェードインといって、ここの領主をしています。以後お見知りおきを」


 そう言ってもう一度頭を下げた。


「早速ですが、本題には入ります。最速でAランクまで上がったあなたたち《黒炎の覇者》に、依頼を頼みたくやって来ました」


 ループという男は、穏やかな笑みを浮かべながらそういった。

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