第16話 ランク上げ・上

 そして、Eランク冒険者から始めた俺たちは、手頃なEランククエストを探していたのだが……


「これは効率が悪い」


「こっちはポイントが少ないわ」


「報酬が少ないです」


「場所が、遠い」


 なかなかいいクエストが見つからない。


 ギルド内の一番奥にある、大きなコルク板の壁に貼り付けられているEランク依頼は、どれも効率が良いものとはいえなかった。


 色々な依頼を読んでいたそのとき、ふと昔していたゲームのことを思い出した。


 そして、色々な納品クエストの張り紙から、ひとつの張り紙を見て、俺はその依頼を受けることを提案した。


「これとかいいんじゃない?」


 そう言って俺が持ち出したのは納品の依頼。その内容は、とある薬草の納品クエストだ。


「どうしてこれなの?あまり効率が良いとはいえないクエストだけど」


 その依頼を読んだミルが言った。


 ミルの言う通り、このクエストはお世辞にも報酬が良いわけではなく、ギルドからのポイントも労力に比べて少なめだ。


 だがしかし!


「これ、1束100グラムの薬草20束の納品でしょ?でも、最大で1000束まで納品できるんだって」


 そう!これを1000束集めて同時に納品すれば、このクエスト50回分を一瞬でクリアでき、一発でCランクまで到達することができるのだ!


「待って。そんなに、集めてたら、時間がない」


 真理の言う通りである。この葉一枚が約10グラム。1束で100グラムなので、1000束を集めるには約1万枚の葉が必要だ。


 しかし、これこそ日本で培った俺のゲーム脳。今こそ発揮するときだ!


「店で買い占めるんだよ」


 俺のその言葉を聞いた三人の頭に衝撃が走った。現実で生きる人にそういう発想は思い付かなかったのだろう。


 RPGなどのゲームでよくある納品クエスト。定番ではあるが、このクエストには二種類の達成方法がある。


 1つ目は自分で集める方法。自らフィールドを駆け回りながら、全てのポイントでの採取が終わったら他のフィールドへ行くという、気の遠くなるような作業を時間を掛けて繰り返すものだ。


 2つ目の方法は、中級者、上級者になれば誰もが使用する方法。そう、買収だ!


 有り余る金で目標のアイテムを買い占め、それを一気に納品するという、現実世界では絶対にしないような方法だ。


「たしかに効率は良いですけど、そんなお金どこに?」


 とリークが聞いてきた。


 ふっふっふっ、忘れているようだな?俺たちにはあるじゃないか!


「霊峰をクリアしたときにさ、大量の金貨と宝石取ったじゃん」


 その言葉を聞いてミルもリークも思い出したようだ。


 そこで手に入れた金貨を使って、薬草を買い占めれば、


「「一瞬でCランクまでいける」」


 ミルとリークが顔を見合わせて言った。



「そういうこと。それぞれ250束ずつ買えばいいね。あ、真理にも指輪」


 そういえば忘れていた。真理にも指輪渡しておかないと。


 そう思いながら指輪を渡すと……


「プロポーズ?」


「違うから」


 真理は無表情のまま、そう問うてきた。


 ……ミル、リークさん、その目をやめてほしい。俺はなにも悪くないと思うの。


 俺はその場から逃げ去るようにして外に出ると、ミルとリークは溜め息をつきながら俺に続き、真理は無表情のまま歩き出した。


 

 その後、それぞれが目的の薬草を買い占め、2時間が経つ頃には、4人で合計1000束の薬草が集まった。


 そして、四人揃ってカウンターへ進む。


 俺はクエストが載った張り紙を受付嬢に渡し、こう言った。


「このクエストを受注します。それと、これが目標の薬草です」


 依頼の張り紙とともに、空間から1000束の薬草を取り出すと、受付嬢はアホっぽく口を開けたまま目を見開いていた。


 しばらくして復活した受付嬢は、冷や汗を流しながら、涙目でこう言った。


「えー……薬草の数と重さを量るので3時間ほど待っていただけますかね?」


 その言葉を受諾し、町で暇潰ししようと思っていたときだった。


「おい、てめえら」


 後ろにいた飲んだくれのおっさんが俺のことを睨み付けていた。


「なんですか?」


 平然を装って、できるだけ自然に聞く。怖いとかそういうのじゃなくて、


 こういう展開を待ってたんだ!


 そんな胸の高鳴りを抑えながら、飄々とした態度でゆっくりと振り返る。


「そう、お前だよ。ローブで隠してるが、声からしてガキじゃねえか。そんな青臭えガキがなんでこんなところにいるんだよ」


 と、苛立った様子で聞いてきた。


 振り返って、後ろの受付嬢を見てみると、必死に薬草を数えている。問題起こしてもバレなさそうだ。


「いや、モンスターと戦いたいなあと思って」


 俺がそう言うと、その男は机を大きく叩きながら立ち上がった。


「お前、冒険者舐めてんのか?死にたいなら他所で死ねよ。お前のパーティーの仲間もな」


 うわあ!テンション上がってきた!


「やだね」

 

 短く、煽るように、そう返した。


 すると、その男は俺に近づいてきて、真正面に立つと、殺気を滲ませながら言葉を発した。


「だったら今ここでぶっ殺すぞ?」


「殺れるもんなら殺ってみな」


 またまた煽るような口調で言った。楽しいなあ。


「威勢だけはいいじゃねえか!だったら遠慮なくっ!」


 そう言うと、大男は拳を大きく振りかぶって、俺の顔面目掛けてパンチを繰り出した。


 避けるのは格好悪いので片手で受け止める。


 全ステータス20000越え舐めんじゃねえぞ!


「おい、どうした。こんなもんか?こんなんじゃモンスターの一匹も倒せないぜ?」


 ニヤケた表情でそう返すと、その瞬間、男は腰に下げていた剣を引き抜いて斬りかかってきた。


 俺はそれを人差し指と親指でつまみあげ、剣先を粉々にした。


「な、なんだこいつは!化け物か!」 


 俺に斬りかかってきた男はそう言うと、背を向けて逃げ出した。


 ふんっ、腑抜け野郎が。


 ギルド中の冒険者が俺を呆然と見つめている。


 辺りには受付嬢たちの必死に薬草を数える声だけが響いていた。


 俺が溜め息をついたその瞬間、ギルド内に冒険者たちの称賛の声が上がった。


「おいお前!すげえな!あのAランク冒険者のプルトムを圧倒するなんて!」


「本当にありがとうな!これからはあいつに怯えなくて済む!」


「あいつはこの街唯一のAランク冒険者だからって、俺たちのことをゴミみたいな扱いをしてたんだよ!しかもいっつも金奪っていくしよ!」


 へえ、そうだったんだ。あいつゴミ野郎だったのか。


 冒険者たちの歓声が溢れるなか、その中では珍しい、女性の一際大きい声が聞こえた。


「やっと終わりました!合計1000束、確かに頂戴しました!」


 あ、終わったみたい。よし、それじゃあ満を持して!


「それでは、報酬の銀貨100枚です。そして!ギルドポイント140×50で7000ポイント、これにより!Eランク冒険者から、Cランク冒険者への昇進が決定しました!」


 受付嬢の声を聞き、さらに大きな歓声が響き渡った。


 こうして、俺たち4人はCランク冒険者へと上がり、討伐クエストが受注できるようになった。

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