第15話 冒険者ギルド

 朝から一悶着あったが、何事もなかったように戻ってきたミルは、俺と真理の視線を不思議そうに見つめながら朝食を食べ始めた。


 その後、神獣にされて居場所の分からない、ミルの妹の手がかりを探すため、冒険者ギルドへ向かうこととなった。


「ここが冒険者ギルド?」


「らしいわね」


 俺たちは『冒険者ギルド』と書かれた看板の前に佇むと、しばらくしてドアを開いた。


 中に入ると、ものすごい熱気と罵声が飛び交う酒場のような場所だった。


 まあテンプレだよな。


 そう思いながら受付へ進む。


 暴漢紛いの酔っぱらいたちは俺たちの存在に気づいていない。


 カウンターで欠伸をしていた受付嬢へ話しかけると、びくっと硬直しながらこちらを向き、このギルドの説明をしてくれた。


「ここは地方なので強いモンスターの依頼は結構多いんですけど、討伐のクエストはCランク以降となっているのでご了承を」


 やっぱりそうなっているのか。でも、今回ここに来たのは違う理由だ。


「あ、今回は冒険者登録じゃなくて、俺たち、神獣の情報を集めに来たのですが」


「はい。神獣ですね。分かりまし……え?」


 ですよね。そうなりますよね。モンスターの最高峰、ドラゴンよりも強いですもんね。


「しょ、少々お待ちください。今、上の方に取り次いでくるので!」


 パタパタとせわしない様子で走りながら裏の扉へ消えていった。


「やっぱり神獣の情報ってなると厳密に保管されてるのかな?」


「それはそうでしょうね。この世界の人間ではまず太刀打ちできないほどの強さだったから」  


「そうなのですよ。しかも、物理攻撃は無効の上に、魔法もほとんど効かないんです。二人で挑んでも勝てませんでした」


 この二人で勝てないって相当じゃない?いや、直接元に戻せないから秘宝を探すことになったのか。 


「その、妹の神獣は、どんな獣なの?」


 と、真理が聞いた。


 たしかにどんな形状してるのか知らないんだよな。神獣って鳥とか猫のイメージが強いけど、ミルの妹って何の姿だろう?


 そんな俺の表情を読みとって、ミルが説明してくれた。


「羊よ」


「羊かあ」


 羊ねえ……。あんまり強そうじゃなくない?


「物凄くデカイのよ」


「どのくらい?」


「30メートルくらいかしら?」


「うーん、40メートルくらいじゃなかったですか?」


 どちらにせよデカいわ。そんなん無理ゲーだろ。


「あの巨体でタックルされたときは流石に死ぬかと思ったわ」


「しかも角が直撃でしたよね。あのときは焦りましたよ」


 ハハハと二人で笑っているが何の笑い話にもできない。


 そうこうしているうちに、受付嬢のお姉さんが戻ってきた。


「えー……すみません。神獣の情報を開示するにはSランク冒険者の権限がないと閲覧できません」


 薄々そう感じてたけどやっぱりか。


 どうする?とミルの方を見ると、溜め息をつきながら、しょうがないといった様子で言った。


「じゃあ冒険者登録をお願い。ここにいる四人とも」


 すると受付嬢は「かしこまりましたー」といいながら裏に行くと、何らかの機械を持ち出してきた。


「これはあなた方の魂の情報を読み取り、ギルドカードに記録するものです。ではあなたからどうぞ」


 と言って俺の方を見た。


 俺はその機械に近づき、手を触れると、大量の記号が不規則的に流れ出した。


「あ、あれ?故障ですかね?そんなはずはないのですが。あ、試しにあなたもお願いします」


 そう言われたミルが手を差し出すと、今度はちゃんとした文字がでてきた。のだが……


「こっ、このステータスは!」


 数値がおかしかった。


 魔力が820000越え、筋力、俊敏は600000近く。体力は500000というチートステータスで、レベルは当然の如く99となっている。


「あ、あれぇ?……そこのお二方もお願いします」


 やはりというべきか、リークのステータスはやはりチート。筋力、体力、俊敏、魔力、全てが600000越え。真理のステータスは俺と同じように文字化けが起こっている。


「しょ、少々お待ちください」


 受付嬢のお姉さんは、びくびくと震えながらまたまた裏へ戻っていった。


 しばらくして、受付嬢のお姉さんは俺たちを裏にある部屋へ呼び出し、俺たちはその中に入ると、中では筋骨隆々のおじいさんが腕を組んで座っていた。


 そのおじいさんは俺たちの方をギラリと睨むように一瞥すると、溜め息をつきながら言葉を発した。


「はあ。とりあえず座れや」


 ヤクザのような口調でそう言い、俺たちは彼の対面に腰かける。


 彼はしばらく黙っていたが、俺たちを凝視しながら言った。


「すまねえが、あんたたちが本物か確かめさせてもらう」


 スキルで攻撃するのか?と思ったがそんな様子はなく、俺たち一人一人をじっくりと見つめていった。


 しばらくして大きな溜め息をつくと、自嘲するように言った。


「本物か。すげえなあ」


 ポツリと、ここではない何処かを見ながら、うわ言のように呟いた。


 やがて、そのおじいさんは昔話をするように語り出した。


「俺はなあ、今でこそこんなところのギルドマスターなんてしてるが、昔は王都のギルドでSランク冒険者のパーティーとして、バリバリモンスターを狩ってたんだよ」


 まあ雰囲気とか見た目からして大体分かりますけどね。


「ある日、パーティーメンバーの一人が、神獣に挑まないか?って言ったんだよ」


 そう言って天井を見上げ、穏やかな顔つきになると、昔を懐かしむようにして語った。


「あの頃は若気の至りってやつでな、調子に乗って挑んだんだよ。その神獣に」


 そう言って言葉を区切ると、そのときのことを思い出すようにして言った。


「惨敗だったよ。その神獣の見た目は羊だっただが、それは超特大の羊で、実際は30とか40そこらの大きさだったんだろうが、あのときは何100メートルにも見えたよ」


「それでそのあとどうなったんですか?」


 俺がそう聞くと、フッと笑いながら言った。


「俺以外の3人は一瞬で殺されて、命からがら逃げてきた俺はみんなに罵倒されながら追放されたんだ」


 そうして話を終えると、嘲笑気味に笑いながら言った。


「あんたらは俺たちとは違う。本物だ。鑑定で覗かせてもらったぜ。あんたら、強えよ」


 そうしてニッと笑うと、立ち上がって言った。


「まあ、Sランク冒険者なったらまた来い。どうせあんたらならすぐだろ?」


 そう言って部屋から出ていった。


 

 その後、さっきの受付嬢がやってきて冒険者登録をしてくれた。


 別にステータスを書かなくても登録はできるらしい。


 そうして、最低ランクのEランク冒険者となった俺たちは、早速依頼を受けることとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る