第14話 朝からラブコメ?

 ミルと真理と三人で寝て、朝起きてリビングへ行くと、リークが不貞腐れた様子で体育座りをしていた。


「り、リーク?どうかしたの?」


 そんなリークに声をかけると、泣き腫らした表情で俺を見ると、うわんうわんと大声で泣き出した。


「ほ、本当に何があった?」


 もう一度聞くと、顔を伏せたまま、鼻声で語り始めた。


「ひっく、っぐすん、ミルと、真理さんと、ユウさんが一緒に寝てるから、私もっ、一緒に誘ってくれるかと思ったのにっ、呼んでくれなかったっ」


 えっ、そんなこと?でもあれは、ミルと真理が勝手に入ってきたからで……


「私だけ除け者にしてっ、三人で寝てたあ~!」


 うええーん!と、子供のように大声で叫ぶと、その声を聞きつけてやって来たミルは、リークにジト目を向けながら言った。


「そいつ放っておいていいわよ。昨日の夜、酒弱いくせに大量にがぶ飲みして、まだ酔いが醒めてないだけだから」


 ミルは、冷えた視線をリークに向けたまま、リビングの椅子に座った。


「それにしてもあの子、本当にホムンクルスなのね。まるで本物の人間じゃない」


 ミルは椅子に座ると、キッチンで料理をしている真理を見ながら言った。


「ホムンクルスの造られ方は知ってるけど、詳しくは知らないんだよね


 俺がそう言うと、真理に視線を向けたまま、俺にホムンクルスの説明をした。


「ホムンクルスってのは本来、入っていた蒸留器の外に出ると死んでしまう存在なのよ。だけどあの子は、蒸留器から出ても普通に生きるうえに、身体の大きさは普通の人間と同じ。身体に留まらず、魂までも再現されている。本物の魂ではないのだけど、擬似的な魂によって、元となった人間のスキルすらも一部使用できるようになってるわ」


 なるほど。昨日のミルの黒炎を吸い込んだのは三島のスキルだったのか。道理で強いわけだ。


「ホムンクルスってのは魂すら存在しないの?」


「ええ。本来のホムンクルスは会話まではできるけど、魂までは存在しないわ。おそらく、あの疑似魂は召喚者のスキルによって造られたものだわ」


「へえ、そんなことまでできるのか」


 そう言いながら真理を見る。


 淡々と、慣れた手つきで料理をしている。


 たしかに。どっからどうみても人間だよなあ。

 

 そう考えながらミルと一緒に、料理をする真理を見つめていた。


 すると、真理は俺たちの視線に気がついたようで、キョトンと首をかしげながらこっちを見た。


「どうか、した?」


「いや、今日も可愛いなーって」


 そう言うと、不器用にはにかんで俺と視線を合わせた。


「えへ、ありがとう」


 可愛い!結婚しよう!


 そんなことを考えていると、ミルがジト目で俺のことを見ていた。


「どうした?」


「いえ、何も」


 そう言いつつも、俺の方をチラチラと見ながら、何かに気づいてもらいたい様子。……だと思う。

 

 うーん、なんだろう?よーく見つめるんだ。よーく見つめたら何か分かるはず。


 そう思いながらミルを見つめていたのだが、やがて、耐えきれない!といった様子で立ち上がると、顔を真っ赤に染めて言った。


「そ、そんなにジロジロ見ないでよっ。流石に恥ずかしいじゃない」


 と、どんどん尻すぼみになりながらも、そんなことを言った。


「いや、でも何かに気づいて欲しそうに見えたから探してたんだけど……」

  

 と言うと、ミルはしばらく口ごもっていたが、やがて決心したように表情を引き締めると、やがて顔を真っ赤に染めながら


「真理には可愛いって言うのに、私には言ってくれないから……」


 と言った。


 んんんんんん───5000兆満点ンンン!


 落ち着け、落ち着け俺。


 よし、言おう。


「いや、ミルが可愛いのはいつものことだから、言う必要ないかと思ってたんだけど」


 と言うと、ミルはさらに顔を赤くした。


 ミルの羞恥のボルテージが上がっていく。


「そっ、そう。で、でも言葉に出して言わないとその思いは伝わらないわ。だから、その……声に出して言ってみて!」


 ふっ、そんなの簡単だ!


「ミル大好き愛してるその真っ赤の瞳とか大好きその目に睨まれたい舐めたいルビーよりも美しいその瞳はまるで吸血鬼の女王ヴァンパイアクイーンのよう踏まれたい踏みつけられたいその俺を踏みつける足を舐めたい真っ黒な髪は深淵よりも深く呑み込まれそうその髪に呑み込まれて顔を埋めたい舐めたいそのなかで死にたい睫毛長い可愛い一本ずつ触れて触りたい標本にしたい太もも内股を舐めて頬擦りしたい小さな胸がめっちゃ可愛い堂々してドヤ顔してるときの顔可愛すぎ顔真っ赤にして照れてるのはもっと可愛いその柔らかそうな……」


「……ウ!ユウ!やっと正気に戻った?」


「お腹を触ってへそを舐め尽くしたい。ん?どうした?」


 声に出すと愛が伝わるって言われたから俺の思いを伝えてたのだけど、一体どうしたのだろう?


 ミルは爆発寸前の赤い風船のように真っ赤な顔で、絞り出すようにして言った。


 羞恥のボルテージは限界に達している。


「たくさん言いすぎると、口に出して言う効果が薄れるわ」


 最後まで言い終えると、その風船、じゃなくて、ミルはばたりと、後ろに倒れこんだ。


「え、ミル?なんで……」


 と俺が動揺していると、不貞腐れていたリークは、あちゃーというように目を瞑ると、ミルへ近づき、ゆっくりと肩に背負って寝室まで運んでいった。


 やがて、戻ってきたリークは赤い顔のまま言った。


「私のことをなんやかんや言ってたけど、ミルも結構飲んでたのよ~。だからいつも言わないような恥ずかしい台詞だってたくさん吐いてたでしょ~?自分の恥ずかしい台詞とユウさんの純粋な好意からくる台詞に耐えきれなかったのね~」

 

 リークさん、キャラ変わってますよ。


 と、遠くからその一部始終を見ていた真理は、独り言のように、ポツリと呟いた。


「ユウに、あんなこと、言われたら、いいなあ」

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