第13話 荒瀬優と指輪の空間・下
俺は現在、真理によって、この空間の説明をしてもらっていた。
「なるほど。ということは空間の指輪の宝石部分を触れることによってこの空間にワープして、もう一度触れると元の世界に戻る。この空間は指輪の中ではないんだよね?」
すると真理は、コクンと頷くと指輪を見ながら言った。
「うん。そして、指輪からワープできる空間は、全部同じだから、他の所有者と共通で使われる」
なるほど、だから俺がとったやつ以外の武器も多かったのか。
「それじゃあ、この空間を案内するから、ついてきて」
そうして歩きだした真理についていく。
次の部屋は、リビングのような部屋だった。
「リビング?」
「そう。ここで私が料理をして、優がそれを、食べるの」
無表情だが、鼻息をフンスと荒くし、張り切っているのが分かる。しかし、料理はできるのだろうか?
「料理はできるの?」
すると、真理はこっちを向いてサムズアップをすると、腕に力こぶをつけながら言った。
「大丈夫。感覚は全部、オリジナルと同じだから。オリジナルは、やまとなでしこ、だから」
大和撫子。たしかに、あいつに似合いそうな言葉だけどな。
「まあ、期待して待っとくよ」
俺がそう言うと、真理は嬉しそうに微笑んだ。
うわああぁぁぁぁー!なんて可愛いんだ!
頭のなかで一人悶々とする俺を見ながら、元の無表情で言った。
「他は、大浴場10個と、トイレが10個、個人部屋が100個、戦闘場が一つ」
広いな。個人部屋100個て、多すぎない?
「分かった。案内してくれてありがとう。じゃあ元の世界に行こうか」
俺がそう言って指輪を触れようとすると、真理は、俺の服の裾を掴んで引き留めた。
「ちょっと、待って」
真理はそうして、俺の顔を無表情で見つめていたが、やがて無表情ながらも、顔を真っ赤にして言った。
「私、優の赤ちゃん、欲しい」
な、なんてことだ!この俺が美少女に誘われるなんて!
お、落ち着け俺、相手はまだ出会ったばっかりだ!俺はそんなに白状な男になったつもりはない!
「待て、待って。俺たちはまだ出会ったばっかりなのに、そういうのはまだ早いというか……」
「大丈夫。愛があれば、問題ない」
そう、そうだよ。この世には愛があれば、過ごした時間なんてどうでもいいんだ。
俺と真理が、二人で寝室へ向かっていると……
「うん。多分ここだわ。リークー!多分ここにいるわよー!」
急にミルの声が聞こえたと思うと、ドンドンと足音が近づいてきた。
そして、後ろのドアが開く。
「あ、ユウ。こんなところにい……」
俺と真理を交互に見ると、ミルは急にニコニコとした表情になり、不気味なほどに優しい声音で聞いてきた。
「ユウ?その女、誰?」
ひええええぇぇぇ!な、何ですかミルさん?俺はなにもしてませんよ?
俺が一人で慌てふためいていると、俺の隣にいた真理が無表情のまま言った。
「優は、私の夫。私たち結婚してる」
俺の人生・ジ・エンド。ミルは笑顔のまま掌に獄炎を浮かばせている。
「へえ。私という女がありながら、他の女と一緒の寝室にいるなんて、どういうことかしら?」
な、なんでミルさんが怒るのですか?私ナンカシマシタカ?
「いや、これはその……」
「これはその?なに?」
誰かー!助けてー!年齢=彼女いない歴の童貞が修羅場ってるよー!
「勇者様。お呼びですか?」
ニッコリと微笑を讃えながら現れたのは、頼れる精霊王、リークさんだ。
そして、リークさんは俺と真理を交互にみると……
「さて、言い残すことはありませんか?」
その微笑を崩さないまま、ドスの効いた声で問い掛けてきた。
どうしてこうなった!
首をかしげて何かを考えるようにしていた真理は、ようやく口を開くと
「優、大丈夫。妻は何人いても、私が正妻なのは、変わらないから」
爆弾を投下した。
「「誰が正妻だって?」」
お願いだからホントにやめて!俺のために争わないでくれ!
「なら、あなたたちは優のなんなの?」
そう問い掛けたとき、真っ先に答えたのはリークだ。
「私はユウさんに命を救われました!そのお礼として一生ついていくと決めたのです!」
その答えを聞いた真理は、無慈悲にもこう告げた。
「そんなの、迷惑なだけ。お礼なら、物品払って、それで終わりでいい」
その言葉を聞いたリークは体育座りをしてブツブツ喋りだした。
ああ!リークのメンタルが!
次にミルが出てくると、堂々と、胸を張って答えた。
「ユウは私のご主人様よ!ユウは、私が必要だから私を支配したのよ!」
顔を真っ赤にしながらそう言うと、真理は強烈な一撃を放った。
「だったら、ペットはペットらしく、大人しくしていなさい」
その言葉を聞いたミルは、赤かった顔を、さらに真っ赤に燃え上がらせると、掌から獄炎を放った。
「危ない!」
そう言って、真理を庇おうとしたが間に合わない。
黒い炎が真理の真ん前に来たとき、真理は手の平を獄炎へ向けると……
黒い炎はその手の平に吸い込まれていった。
「「「へ?」」」
真理以外の俺たち三人が呆けた声を発した。
当の本人である真理は、何事もなかったようにミルを見ると、
「弱い犬ほどよく吠える」
鼻をフンと鳴らしながら無表情で言った。
「ムッキイイイイィィィ!」
その言葉を聞いたミルは、叫びながら真理へ飛び掛かると、二人してキャットファイトを始めた。
その様子を見ていた俺とリークだが、やれやれというように首を振ると、リビングへ向かい、ミルと二人で買ってきたという青いレモンのような見た目の、リンゴのような味をしたフルーツを食べ始めた。
しばらくして、ミルは肩で息をしながら戻ってきて、真理は無表情で何も変わった様子を見せないまま戻ってきた。
夕方になると、冷蔵庫にあった食料で真理が夕食を作った。俺の予想に反して、見た目も味も満点だった。
その後、一人ずつで大浴場に入るという贅沢な体験をしたあと、それぞれの部屋で寝ることとなった。
夜中に真理が侵入してきたり、その気配を感じたミルが俺と一緒に寝ると言い出したりするというハプニングがあったが、結局三人で寝ることとなった。
三人で寝ている部屋の外から泣き声が聞こえてきた気がしたが、こんな異空間にそんな声するはずないだろうと思ったので、それは俺の気のせいとして寝ることにした。
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