二章 Sランク冒険者

第11話 ダンジョンを攻略して

 そしてダンジョンから出ると、ミルとリークさんは、はしゃぎながら辺りを見回している。


「ねえあそこ!魔王城がなくなってるわ!」


「ホントですね!最近の世の中はすごいです!」


 というような会話を繰り返しているが、俺は昔のここを見たことないから分からない。


「ちなみに、今どこか分かる?」


 俺がそう聞くと、二人は声を揃えて言った。


「「分かんない!」」


 ですよねー。昔の人ですもんねー。


「まあとりあえず進んでみましょう。あそこに町があるわ」


「そうだな。でも、ミルとリークさんは目立つからどうしようか」


 俺がそう言うと、二人はキョトンとした。


 いや気づいてないの?二人ともめちゃくちゃ美少女だよ?リークさんは金髪碧眼ボンキュッボンのナイスバディだし、ミルなんて俺みたいなロリコンからしたら見るだけで絶頂モノの美少女だ。


「とりあえず顔隠せるやつ着よう」


 そう言って俺が取り出したのは灰色のローブ一枚と、茶色のローブが二枚。


 それを見たミルが説明してくれた。


「破蚕の生糸でできたローブと、聖樹の樹脂を染み込ませた退魔のローブね。どちらも一級品の装備だわ」


 なんか仰々しい名前だな。破蚕ってなに?


 そんな俺の疑問に満ちた表情を見て、ミルが説明してくれた。


「破蚕の生糸は、その名の通り、破蚕という蚕の糸から作られたものよ。破蚕の糸は、肉体を分解していくけど魔力を大量に蓄積できて、いざというときに取り出せるの。退魔のローブは魔法を分解する能力が備わってて、聖樹の樹脂を染み込ませているから、火と闇を軽減して光の効果を上昇させるわ。ついでに魔力の自然回復量が増える」


 強!でも、その退魔のローブってミルが着ても大丈夫なの?


 ミルは、俺の表情から言わんとするところを読み取ったようで、


「心配ないわ。分類上は悪魔だけど回復魔法で回復するし、光属性魔法だって使えるわ」


 と言った。それならいいんだけど。


 そんな俺とミルの様子を見ていたリークは、ミルの顔を見てニヤニヤと笑うと、俺たち二人を交互に見ながら言った。


「二人ともやけに仲良いですよね。言わなくても分かるっていうか、以心伝心ってやつですかね?互いのこと、よく分かってるんですね~」

 

 と、煽るような口調で言った。ミルは顔を真っ赤にしながらプルプルと震えている。


 その表情は羞恥から来るものか、それとも怒りから来るものかは分からないが、そんなミルを見ながら、俺はリークに告げた。


「そりゃあよく分かるさ。なんたって、俺とミルは一度繋がったんだから」


 俺がそう言うと、ミルは赤かった顔をさらに赤くし、リークはあんぐりと口を大きく開けている。


「……まさかそこまでの仲だったとは」


 と、リークが冷や汗を流しながらそう言うと……


「ちっ、違うわよ!繋がったっていうのは《同調》のことで……」


 慌てふためきながらミルはそう言ったのだが……


「隠語?」


 リークに揚げ足をとられて煽られている。


「違うって言ってるじゃない!私とユウはまだそんなんじゃ……」


「「まだ?」」


 まだ?今、まだって言ったよね?


「い、いいい今のは……。ほ、本当に違うのよ!ユウとそんなことしたいなんて思ってないし、第一私はこんな身体だし……」


 最初の方はアワアワとせわしない様子で否定していたのだが、今はなぜかモジモジと人差し指をチョンチョンと合わせながら恥ずかしそうにしている。


 そして、リークは大きく溜め息を吐くと、ミルを見ながら言った。


「ほら、このローブ着てください。ひとまず町に行ってみましょう」


「そ、そうねっ!ほらユウ、早く行きましょう!」


 ミルはローブを着ると、慌てたようにその言葉を肯定し、リークに並んで歩きだした。俺も破蚕のローブを着て後をついていく。


 町に入ると、そこには、大量の露天が並び、武器から食料、日用品まで幅広い商品が売られていた。


「すごいわね。ここまで人と建物が多いなんて」


「そうですね。昔は王都でもここまで人通りは多くなかったのに」


 二人は興味深そうにしながら色々な物を見て回っている。俺も武器を見に行こうと歩きだしたときだった。


『優さん。私です。預言者です』


 頭に直接入ってくるような声が聞こえた。そういえばすっかり忘れてたな。


 念話の石を取り出さないと。


 そう思って指輪を触ると……


 いきなり視界が変わった。なんだここは?


 辺りには俺の見覚えのあるアイテムやら武器やらが放置されており、倉庫のようなところだった。


 ここはまさか指輪の中か?いや、指輪は手に嵌めている。ではここはどこだ?


 異空間なのは間違いない。だが今はいい。


 とりあえず誰もいないことを確認して側に落ちていた水晶に向かって話しかける。


「ああ。聞こえてる。連絡忘れてたわ」


 と言うと、すぐに返事がきた。


『どうやら攻略できたようですね。おめでとうございます』


 あれ?こいつ何で知ってるんだ?


『いえ、盗み見とかではありませんよ?予言に、『封印されし悪魔と契約をしてダンジョンを攻略する』とあったので』


 なるほどな。でも、その予言には少し間違いがある。


「たしかに契約はしたけど、それが終わった後、不意打ちで支配仕掛けたらあっさり成功して、そんで一緒に攻略した」


 俺がそう告げると、預言者は途端に黙り込んだ。


「おい。どうしたんだ?」


 しばらくして立ち直ると、静かな口調で言った。


『本当に、ですか?』


「ホント」


 俺が一瞬でそう返すと、慌てたようにして喋りだした。


『そ、その悪魔はミルと言われ、現世界神のエリクによって封印された神話級の最上位悪魔ですよ!漆黒の長髪に、深紅の瞳を持ち、魂すら焼き付くす炎魔法を使うというあの!』


 へえ、エリクとかいう野郎に封印されてたのか。そいつ絶対ぶっ殺してやる。


「ミルを支配したらどうにかなった」


『どうにかなったで済む問題じゃありませんよ!昨日まで預言されていた全ての事象がなくなったじゃないですか!』


「あ、ごめん」


『ごめんで済めば預言者は要りませんよ!また新しい預言出るまで大体の未来すら分からないし、もしかしたら日本に帰れなくなるかもしれないんですよ!』


 それは……別によくない?俺にとってはだけど。


「分かった分かった。安心しろ!精霊王も味方に付けたからな!」


 そして、また沈黙が流れる。


 やがて、数十秒ほど経った瞬間。


『はあ』

 

 預言者は呆れてものも言えないというように溜め息を吐き、諦めたように言った。


『ここから先の未来はほとんど分かりません。元の世界に戻れるか分からないし、クラスメイトの誰かが死ぬかもしれない。でも私たちを救えるのはあなただけなんです。お願いします』


「分かった」


 短くそう返すと、念話は聞こえなくなった。


 こうして、俺と預言者の会話は終了した。

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