第10話 攻略の報酬
「あ、あんたどうなってるんだ?」
「え、私ですか?」
精霊王は、あっ、と口を開くと、居ずまいを正し、ゴホンと咳払いして言った。
「始めまして。私は精霊王のリークです。どうぞ、リークと呼んでください」
「私は初めましてじゃないでしょ」
と、横から口を挟むようにしてミルが言った。
「ん?リークさんとミルって知り合いなの?」
「ええ。なんたって、二人でここの攻略進めてたんだから」
「そうなんです。二人で進んでたら、いきなり変な魂挿し込まれて」
そうだったのか。そして、その神がミルも封印したと。
それにしても、なんでリークさんは俺のことを勇者様と呼んだのだろうか?
「じゃあ、リークさん。なんで生きてるのかは置いといて、なぜ俺のことを勇者様と?」
リークさんは、へ?という感じの表情で俺を見ると、首をブンブンと振り、俺のことを再度見ると。
「それは!あなた様が聖剣をお持ちになっているからです!」
フンスと、鼻息を荒くしながら言った。
この人、クールに見えるけど、ポワポワして抜けてる感じの人だな。
「いや、そこら辺に落ちてたから拾っただけなんだけど」
「まあ!勇者じゃないのに聖剣を手に持てるとは!やはりあなたは真の勇者様です!」
話がまったく進まないんだけど。
「分かった。じゃあそういうことにしといて、リークさんはなんで生きてるの?」
俺がそう聞くと、リークさんはポカーンとした表情をして俺を見た。コロコロと表情が変わる人だな。
「ああ、私はもともと死んでませんでしたよ?ただ、太古の悪霊に魂乗っ取られていただけで」
「いや、それにしてもおかしい。戦闘中に死んでなかったとはいえ、最後には体のど真ん中に聖剣ぶっ刺さってたじゃん。なのに血すら出てないし」
俺がそう言うと、リークさんは納得したような表情で言った。
「ええ。人間ならそうなのでしょうが、私は第一に精霊です。本来なら実体なんてありませんが、あの悪霊が無理やり魂を具現化していたんですよ。だけど、その私を操っていた悪霊が聖剣によって浄化されることによって、私の魂は元に戻ったのです」
ドヤ顔をしながら言い放った。
「なるほど。でも、だったらどうしてリークさんの魂は消えてないんだ?」
「実は私精霊なんですよ?しかも精霊王なのですが……」
「早く続けなさい」
事前に聞かされているので驚かないのは当然だ。
リークさんはハアと溜め息を吐くと、諦めたようにして話を続けた。
「聖剣は聖なる剣です。悪しきものだけを浄化するので、私にはただの剣としてしか効果がなかったのでしょう」
これで謎が解けた。よーし、リークさんも仲間に加わったことで!
「よし、それじゃあ帰るか」
「ちょっとちょっと。二人とも何ナチュラルに帰ろうとしてるのよ。私がなんでここに来たか忘れてない?」
「「あ」」
そうだった。完璧に忘れてた。聖剣の話題で盛り上がってたからな。
「妹を元に戻すための秘宝だっけ?」
「そう、それよ」
と、不満げな表情で頷いた。
「そうでしたね!それでは、奥の扉に進みましょう!」
リークさんが元気にそう言うと、俺たちは奥にあった扉の前まで進み、そこで立ち止まった。
「この扉は小さいね」
「今までのに比べたら、でしょ?」
前の二つの扉は何10メートルもあったからな。この扉が普通に見える。
「じゃ、開けるよ」
「楽しみですね!」
ニコニコと表情でリークさんが見守っている。何かあってもこの人がいたら大丈夫かな。
後ろにミルとリークさんがいることを確認して、ゆっくりと少し近づいてみたが開かない。今までのは自動ドアだったが今回は手動のようだ。
前に進んでゆっくりと押し開けると、その部屋には……
「わーお」
大量の金貨や宝石と、魔道具らしきものがちらほら。ローブや鎧などの防具、剣や小さなナイフまである。
これだよこれ!こういうのが見たかったんだ!
「そういえばここは歴代勇者の秘宝が祀られていた神殿でしたからね」
「スゲエ!これ全部歴代勇者の遺品か!」
あ、あそこ。アイテム収納できる指輪だ。
「この指輪、6個か」
「ああ、それは神様からもたらされる空間の指輪ですね。容量は計り知れないほど大きく、中に入れられた物体は劣化しなくなるそうです」
「んじゃこれは?」
と、紫色のネックレスを差し出す。
「ああ、これは魔導のネックレスですね。といっても、初級魔術の効果を上げるだけですが」
まじかよ!これ俺のためにあるようなものじゃん!
「ここにあるものは全てダンジョン攻略者の物なので、全部持っていきましょう」
ニッコリと微笑を讃えながらそう言った。
リークさんもミルも指輪を嵌めると、すぐにアイテムの回収を始めた。容赦ないな。
まあ俺も全部貰うんだけど。
そして、全てのアイテムを根こそぎ奪い、ホクホク顔で帰ろうとしたときのこと。
「そういえば、ミルの妹を元に戻す秘宝とやらは?」
と俺が聞くと、ミルはニヒルな笑みを浮かべながらアイテムを出現させた。
「これよ!神獣の霊玉!」
そう言って取り出したのは直径20センチぐらいの、真っ赤な宝石だった。
「神獣の霊玉?」
「それですね。それは、神獣と人間の肉体に自由に操れるようになるアイテムです。昔の勇者もそれを使って自分の神獣と旅をしていたそうです」
へえ、神獣使いの勇者か。強そうだな。
俺があれこれ考えていると、ミルは俺とリークを交互に見ると、頭を下げて言った。
「これで妹を元に戻せるわ。二人とも本当にありがとう」
「いや、礼には及ばないよ。それに、それを言うなら妹を元に戻してからにしよう」
「ええ、そうですよ!あの子を元に戻すため、これから頑張りましょう!」
俺たちがそう言うと、ミルはニッコリと笑うと、俺たちに背を向けゆっくりと歩きだしながら言った。
「そうね。それでは行きましょう」
ミルに連れて俺とリークも歩きだす。
ミルが扉を開けると、扉からは眩い光が溢れだし……
次に目を開けると、空には満点の青空が広がっていた。
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