第6話 悪魔との取引

 俺が契約に応じる意を示すと、悪魔はニッと笑いながら告げた。

 

『貴様の願いを叶えてやろう。その代わり、お前の魂を1つ貰う。願いに関しては、願いを増やすとか世界の破滅とかはナシだ。それ以外なら基本いい』


「分かった」


 よし、ここまではいけた。ここからどうするかが問題だ。


 あいつに10秒待って貰うようにお願いして、その10秒であいつに《支配》を使うか?いや、それじゃリスクが高すぎる。


 契約をすると言った以上は、契約通りにしないと死ぬ気がする。どうするか……。


 と、少し考えたところで、あいつのさっきの発言に穴があることに気づいた。


 俺のたった『1つ』の魂を貰う代わりに願いを叶える。そして願いは、『願いを増やす』と『世界の破滅』以外なら基本OK。


 その願いが駄目だったら最初の案でいくしかないが、とりあえず聞いてもらうしかない。


「決まった」


『そうか、では言え。貴様の願いを!悪魔に魂を売った愚か者の願いとやらを!』


 目の前の悪魔は、今にも待ちきれないといった様子で口元を緩ませている。


 よし、それじゃあ言わせて貰おうじゃないか。


「俺の魂を10個増やしてくれ」


『よかろう。その願い……今なんて言った?』


 悪魔は呆けた表情でこちらを見ている。だが俺はそんなことは気にも留めず、相手を追い詰めるようにして言った。


「だから魂を増やしてくれよ。増やすのは願いじゃないし、世界も破滅しないだろ?」


『だ、だが魂を10個貰うことに……』


 悪魔は狼狽している。普通は悪魔と人間逆だと思う。しかし、


「あんたは言ったよな?『1つの』魂を貰うって。悪魔が契約破るのかよ?」


『す、少し待て。今連絡するから』


 悪魔はそう言うと、目を瞑って誰かと念話をしているようだった。魔神とかかな?


 悪魔が1人で百面相を始め、やがて大きな溜め息を吐くと俺の方を見て言った。


『いいだろう。その願い、叶えてやる。本当にどうしたものか。まさか人間ごときに言いくるめられるとはな』


「ハハッ。ありがとうな」


 悪魔は少し口元を緩めると、俺を見て言った。


『しかしどうなっても知らんぞ?それだけの魂が1つの肉体に収束すれば、その肉体は負荷に耐えきれず死ぬだろう。本当にそれでもいいのか?』 


「ああ。むしろ望むところだ」


 悪魔は、もう一度ため息を吐くと、俺の方に手を伸ばし、何か呪文を呟いた。


 すると、俺の中に何かが入ってきた感覚がした。おそらく魂が10個増えたのだろう。よろしく。よろしく。これから頼んだ。リーダーは最初からいたお前ね。分かった。分かったから一旦落ち着け。多分魂の一つ一つが自我を持っているんだろう。ああ、そうらしいな。《同調》ってスキル合ったよね。眷属とかじゃないけどあれ使えんじゃない?確かに。使ってみるか。《同調》発動。


 あ、ホントだ。思考が1つになった。いや、1つになったと言うよりかは、みんなの考えが同じなのだろう。これが同調か。


 自分と眷属のスキルを使えるようになるスキルだったが、副作用としてか、思考も同調するようになるらしい。


『それでは、貴様の魂を1つ貰うとしよう』


 そう言うと悪魔は突き出していた手を大きく開く。すると、俺の体から半透明な何かが抜けていき、悪魔の掌に収まっていった。


『さて契約は終了だ。それにしても、本当に死ななかったな。どういう仕組みだ?』


「さあな」


 多分だけど《自然回復:S》のおかげだ。ぶっ壊れそうな肉体を常に回復し続けているのだろう。1つの肉体に10個も魂が入ってるのによくぶっ壊れなかったな。


「あ、それよりもちょっといい?」


『久しぶりの来客で気分が良い。いいだろう。話せ』


 よし、かかった。


「んじゃ、『支配』」


 頭のなかで強く念じながらそう言うと、目の前の悪魔は神経が途切れたようにぶっ倒れた。


「あれ、死んだ?」


 まずかったか?こいつには主がいるみたいだし、支配権をとられる前に殺したとか?


 倒れた悪魔に近づくと、その巨体から大量の煙が吹き出した。


「また煙かよ!煙は碌なことがないんだよ!」


 俺が悲痛な叫びを上げると、悪魔を覆っていた煙は晴れ、その中から出てきたのは……


「……黒髪美幼女だとっ!」


 さっきまで悪魔が倒れていた場所には、黒を基調とした、派手さが抑えられているゴスロリドレスに身を包んだ、黒髪の美幼女が横たわっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る