第5話 太古のダンジョン

 そうして、ずっと走っていた。


 後ろからは数人の追手が来ている。


 

 あの後、預言者と別れてからすぐに走り出したら、数分後にはこうなっていた。


 おそらく尾行されていたのだろう。しかし、Eランクではあるものの、隠密を使ったお陰で奴らから認識をはずすことができた。


 しかし、音でバレてしまったのか、走り出してしばらくすると後ろから矢が飛んできていた。あのときは本当に死ぬかと思った。

  

 そして、現在も絶賛死にかけ中。俺の姿は追手たちに見えているだろう。次の瞬間には矢が刺さって死んでいるかもしれない。


 そうだ!こんなときこそ煙玉。


 さっき貰ったばかりの煙玉を取り出し、自分の真下に叩きつける。


 すると、たちまち大量の煙が吹き出し、俺の姿を包み隠した。


 音で分かるかもしれないが、それでも走り出す。できるだけ距離を広げておく。


 そう思ったときだった。 


「あ」


 足が地面に付いてない?ん、暗くて見えない。死んだ?いや、なんだこの高揚感、まるで高いところから落下しているときのような……。


 これやばいやつだ。そう思ったときにはもう遅かった。  


 ボギュッという、およそ人体からはでないような、奇怪な音が響くと、体全体にヒビが入ったような衝撃が走った。

  

 あまりの衝撃に俺の意識は吹き飛ぶと、感覚のない足はゆらゆらと揺れながら地面に倒れ伏した。



 しばらくして目が覚めた。俺生きてる?暗すぎて分かんないんだけど。


 光の初級魔法で灯りを付ける。


「なんだここ?」


 ホコリまみれの、ボロボロになった石材がそこら辺に散らばっている。

 

 天井を見ると、今にも崩れ落ちそうなほどの亀裂が走っている。


「ダンジョン、か?」


 どこかゲームで見るようなダンジョンの雰囲気がする。しかし、さっき俺は追手から逃げてて……そうだ!そして煙玉を投げて走ったらここに落ちたんだった。


 預言者の言う通りになった。煙玉で道が開けると。


 ここはダンジョンか?スライムの森の床に巨大ダンジョンとかロマンを感じるよな。


 だけどモンスターは見当たらないし、罠らしきものもない。本当にここは何なんだ?


 分からないので、とりあえず進んでいく。


 すると、辺りには骸骨とそれの装備が放置されていることに気づいた。


「何だこれは?」


 その骸骨を触ってみると、一瞬にしてバラバラに崩れたのだが、装備の方は何も古びていない。それどころか、まるで新品のような輝きを放っている。


「すみません。これは貰っていきます」


 しっかりと手を合わせ目を瞑る。


「この指輪は……」 


 もしかすると、もしかするかもしれない。


 というわけで、この指輪に軽く魔力を込めてみたのだが……


「眩しっ!」


 眩い光を発すると、勇者が使いそうな聖のオーラが溢れ出ている剣が出現した。

 

「聖剣?」


 如何にも聖剣っぽい。ていうか聖剣だろ。


 いや、今はそれよりも!


「この指輪、やっぱり…」


 中に空間がある指輪だ!スゲエ!こういうのワクワクするよな!


「とりあえず、アイテムは全て貰っていきます」


 もう一度手を合わせ、目を瞑る。


 よし、それでは探索再開!




 歩き始めて数時間が経った、と思う。


 暗闇の中で1人は精神的にキツイ。人からどんな感情を向けられても怖くないけど、こういうのは一番怖い。


 昔やったホラゲーを思い出す。いやだあ!


 エロイこと。エロイことを考えるんだ。


 ああ、叶。可愛い可愛い叶。


 よし!元気でた!


 というのをかれこれ20回以上続けている気がする。冗談抜きで怖い。精神が崩れそう。


 そう思っているときのことだった。


『こっちこっち→』


 いかにも怪しい看板が立て掛けられていた。怪しすぎるだろ!


 しかし、これを信じて行かないと頭がぶっ壊れそうだ。精神が死にそう。


 そして、怪しすぎる看板に従って歩いていくと、10メートルを越えそうな、大きな門があった。


「出口か?」


 そこに小さな希望を抱きながら門に近寄る。


 すると、その門は入ってくださいというように自ら開いた。それに釣られて俺も中に入る。


 相変わらず俺の周り以外は真っ暗だ。


 はあ、何もなかったか。もう死んでもいいかな?そう思っているときだった。


『ぬ、人間か?』


 大地を揺るがすようなドスの効いた、低い声が聞こえた。何だこの声?   


 しばらくすると、辺りは紫色に光り、さっきの声の主は姿を現した。


『やはり人間か。何年、いや何万年ぶりだろうか』


 その低い声は、俺の真ん前から発せられていた。


 赤褐色色の肌をした、8メートルを越えそうな巨躯、歯はギザギザと鮫のようになっており、頭にはヤギのような角が生えている。


 これはまさか……。


『よう人間。お前の願いを叶えてやるから魂寄越して封印解け』


 悪魔。ギリシャ神話などでよく見るような、ヤギの角を持っている。こいつの角は大きく、上に尖っている。


 こんなところに封印されている悪魔。きっと太古、古い時代に封印されたのだろう。


 そんな神話級の悪魔との契約。


『どうした?魂をくれるだけで願いを叶えるんだぜ?』


 ニヤニヤと腹の立つ笑みで聞いてくる。


 悪魔との契約は完全に死亡フラグだ。


 でも、どうせ死ぬなら最後まで楽しいことをやって死にたい。


「いいよ。取引をしようじゃないか」


 俺はニヒルな笑みを浮かべてそう言った。

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