第46話 待ち合わせを目撃される

 同級生たちから見直された麻保は、最近何かあったのではないかと噂の的になっていた。


「麻保、最近いいことあったでしょう。勉強はできるようになったし、なんだかうきうきしてるみたいだし、いいことがあったのね。ねえ、ねえ、話してよ、誰にも言わないから」

「ないってば、特別なことなんか何にもないし、変わったことなんかないし、勉強は前ができなすぎだっただけで……」


 と言いながら、顔がにやけてしまい、それも怪しいとじろじろ見られる始末。この間などは、私服でいるところを見た同級生から、服装のセンスが変わったと指摘された。以前は着なかったフワフワ裾が揺れるワンピースのことをやたら冷やかしてきた。


「絶対何かある、秘密にしなきゃいけない何かが」

「そんなあ、秘密なんてないわよ。今まであまりに服装に無頓着だったから、母に着るように言われただけで……」

「わかった」


 ポンと手を打っていうことには。


「さては彼氏ができたとか。そうでしょう」

「私に限ってそんなことは」

「まあ、麻保に限ってそれは絶対ないかあ。男子と会話もできない、顔も見られない麻保に彼氏ができるわけがないものね。それじゃあ、何があったのかなあ」

「もうっ、これ以上訊かないで。話すことなんかないんだから!」


 と弁解しても、絶対隠し事をしているはずだと言い張って聞かない。これはまずいことになった。今日に限って海斗と駅で待ち合わせをしているのだ。一緒に帰ったら目撃されてしまう。何とかしなければ、と慌てて待ち合わせ場所を変更しようとメールを送った。


 ところがどうしたのかと、電話で返されてしまった。あと数十分しかないのにどうして急に変更したのか不思議に思ったのだ。


「どうしたの、もう駅に向かってるのに、急に場所を変更するなんて、何かあったの」


 心配するのも無理もない。


「ちょっと困ったことになって、あのう、あのう、友達が……」


 と言っているそばから、後ろを歩いていた友人はそのすきに距離を縮めている。大急ぎで出てきた時にははるか後方を歩いていたはずなのに、数十メーターというところまで来ている。電話をする時間も勿体ない。だけど、海斗は駅へ向かっているという。


「友達に後をつけられてて、見られたくないの」


 話が聞こえないよう、声のトーンを落とす。慌てれば慌てるほど、後方にいる友人はいぶかしげな視線を送ってくる。


「ちょ、ちょっと、あんまりよく聞こえないんだけど」

「だから、場所を変えて、えっと、どこがいいかなあ。改札口はまずいの、だってもろに見えてしまうから」

「そんなに僕と一緒にいるところを見られたくないなんて、どうして。僕って人に紹介できないようなやつなの」

「そうじゃないんだって。とにかく今は説明している時間はないのっ!」

「それじゃ、とりあえずどうすればいいか指示してよ、っていうか駅で会っても知らん顔してればいいだけじゃないの? もう、駅に着いちゃったよ」

「わあ~~~待って」


 話を続けようにもすぐ後ろに麻保の同級生瞳がぴったりくっついた。電話を慌てて切った。ぴったり体をくっつけてきた瞳に訊く。


「ひょっとして、聞こえてた?」

「いいえ、なんにも。電話は慌てて切らなくてもいいのに? っていうか誰と話してたの」

「あ~ん、着いてこなくてもいいじゃない。瞳には関係ないよお」

「別にさ、着いてきたわけじゃないし、同じ方向だから歩いてただけだから。駅へ行く途中でしょう麻保も」

「そうだけど……」


 瞳は押しが強くて麻保は何か言われると逆らえない。姉御肌で体も麻保より一回り、いや二回りぐらい大きく存在感がある。声の大きさも尋常ではないので、噂話をしてもちっとも内緒にはならずクラス中に聞こえてしまう。

 

「一緒に歩いてるだけだから心配することないじゃない。私のことそんなに変な人だと思ってる」

「いいえ、いいえ、思ってないけど」

「でしょう」

 

 と、並んで歩いている。海斗に何も指示することもできなかった。もう駅についてしまった。絶体絶命だ。

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