第45話 家庭教師の成果は
家庭教師をすること数回、麻保はだいぶ勉強に自信が付きいよいよテストの日がやってきた。その自信が実際の点数に結び付くかどうかはわからなかったがまあ、以前よりははるかにましだろうという予感はある。海斗も熱い激励の言葉をかけ、送り出してくれた。
「今までよく頑張った。だいぶ以前よりできるようになったと思う。自信をもってやればきっと大丈夫。麻保ちゃんならやれる、行ってこい!」
海斗の励ましもあり、試験当日は落ち着いて受けることができた。いままでならば、慌ててしまい時間配分もうまくいかず、最後の問題が手つかずで終わることもあったのだが、今回は違った。
テスト問題が返された日に、返された答案を見て同級生の驚く顔が忘れられなかった。
「どうしたの、麻保。今回はすごいじゃない!」
「まあ、これでようやく人並みってところだけど、えへへ……」
「頑張ったのね、どうやって勉強したの。ねえ、ねえ、塾へ行ったの、それとも家庭教師?」
「まあ、ご想像にお任せします」
「快挙だよ、麻保」
「……まあ、そうだね、私にとっては」
彼氏に教えてもらったとはまだ言えない。そちらの方が同級生を驚かせてしまうだろう。興味津々で訊かれたが、もじもじと口ごもってしまった。十点から三十点、三十点から五十点に上がっただけだとしても、悪い気はしなかった。自分に自信がついた。
返された答案用紙を手に、海斗の家へ向かった。
「じゃ~~ん! 海斗さん、これ見てくださいっ!」
「わおっ、すごいなあ、進歩したじゃないか。良かったよ!」
「海斗さんのおかげです、これからももっと教えて欲しいな……」
「よ~し、見込みありそうだからいいよ」
「わあ、嬉しい。頼りにしてま~す」
「猛勉強の成果だ。う~~む、だけどさあ、今までどうして勉強しなかったの。だって、少し教えただけでこんなにできるようになったんだから、いままでもっとやっておけばよかったんだよ。放置しちゃっただけじゃない」
「だって、どうやって勉強したらいいかわからないし、親は私の成績には無関心だったし」
「へえ~~、お嬢さんなのに勉強に関しては放任されてたんだね。勉強ができなくても困らないってことかな、お金があるから」
海斗がじろりと麻保の顔を見る。その視線にたじろぐ。
「そうかなあ、そんなことはないと思うけど……成績には無関心だったなんて、ちょっと悲しい気持ちだな。お姉ちゃんは結構できたし期待されてたのに」
「ふ~ん、そうだったの」
自分の成績に関心がなかったのか、初めから諦めていたのか、将来自分がどうなってほしいのか両親の思いがわからなくなり複雑な気持ちになった。
「まあ、少しづつでもできるようになれば大学進学も夢じゃないよ」
「ええっ、大学進学なんて。今まで考えたこともなかった。まさか私が大学へ行けるなんて夢みたい!」
「そうだろうと思ったよ。なんせゼロからのスタートだものな」
「あ~~ん、それを言わないでよ。頭が痛くなる」
「本当のことだろ」
「てへへ……」
帰宅した両親にテストの結果について報告し、いままでどうして成績のことに無頓着だったのかを問うと、小さいころからどこか抜けてるし小学生の時から勉強は大の苦手だったから半ばあきらめて、性格さえよければいいとただ可愛がってくれたのだという。男の子と話もできなくなってしまったのかは謎だったが。
「性格さえよければよかったんだって」
「いい環境に育ったね。僕なんかしょっちゅう勉強のことを注意されたよ。過保護ってわけじゃないけど、やっぱり気になるんだろうね親としては。将来世間の荒波にもまれて生きていくわけだし」
というのが海斗の答えだった。
「で、俺に勉強を教えてもらったって言ったの」
「まあ、親しくなったから勉強を教えてもらうことにしたんだって言ったら、へえって目を細めて、あなたにも男の子のお友達ができたのねって驚いてた」
「そのことで驚いてるんだ。麻保ちゃんってよっぽど人見知りしやすいっていうか何ていうか」
「男子とはほとんどおしゃべりもできなかったんで~す」
「これは驚いた。今時珍しい」
「姉にも言われてま~~す」
会うための口実がもう一つできて麻保はうれしくて仕方がない。親にも勉強を教えてもらわなきゃと言い訳できるし、家事代行で来てくれた時なら給料も出る。お互いウィンウィンの関係が続けられそうだから。
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