最近家事代行のバイトを始めました……だけど何か変だ！

第43話 すべてがばれた

　麻保の部屋へ入った海斗は、掃除を始めるでもなくただ麻保の顔をじ～っと見つめていた。あまりの視線の強さに、麻保は目をそらせてしまった。

「あの……海斗さん、掃除をしないの？」

「麻保ちゃん」

「は、はい」

　怒っているのだろうか。怖い顔をしている。

「麻保ちゃんは今まで僕のことどう思っていたの？」

「どうって……どうしてそんな質問を……」

「いいから答えて、本当のことを言って」

「えっ……どういうこと」

　まさか、いままで彼氏代行だと思っていたなんて言えるはずがない。しかも、彼が知っているはずもない。だが、そのことを言っているのだろうか。ほかに心当たりはない。

「今までず～っと海斗さんのことは、よく気が付いて、仕事をてきぱきとこなし、頭脳明晰で、何より私の彼氏だと思ってる」

「そう」

　目がす～～っと細くなった。

「へえ、それだけ。今までず～～っとそう思ってたのかな。心境の変化とかはないのかな」

　さらに海斗の視線は怖くなる。まさか、姉の未津木がばらしてしまったんじゃないでしょうね。

「あのう、何か姉から言われてますかあ」

「別に、何も聞いてないよ」

　ああ、いやな予感がする。手に脂汗が滲んでくる。

「今まで何かおかしいなあ、変だなあ、と思っていたことの答えが知りたかったんだけど、話してくれないんだ。必要以上にヤキモチを妬いたり、年上のマダムの家へ仕事へ行くときなんかすごい形相をしていたし、はるかに年上のおばあちゃんの家の仕事へ行く時ですら、困った顔して見つめてた。理由がはっきり知りたいな」

「それはですねえ、私は海斗さんと離れるのが寂しいからであって、私の愛情の深さなのですよお」

「へえ、そうなの」

　もう目が皿のように細くなって疑いの気持ちでいっぱいのようだ。

「なんか僕の仕事を勘違いしているのかと思った、例えば僕が彼氏代行でもしていて、行く先々で彼氏としてふるまうというような……」

「えええ～～～～っ、まさかあ、海斗さんがそんなことするわけないし、私絶対そんなこと信じられないし、第一海斗さんに限ってそんなことやってませんよねえ～～～」

「やってたとしたら、どうする」

「へっ」

　今度は麻保の顔が引きつった。そっちが本当なのと目が点になる。

「もし僕がそういうことをやっていたとしたら、麻保ちゃんはどう思うかな」

「ええええ～～～～っ、もしかして、それって本当だったんですか、彼氏代行をやっていたっていうのはっ！　本当にやってたのおお、海斗さん！　やっぱり」

　っと叫んでしまってから、麻保は口元を押さえた。そう思っていたことを認めてしまった。

　ああ、もう駄目だ、そんな自分のことをどう思うだろうか。

「やっぱりなあ、僕のこと彼氏代行だと思って今まで付き合ってたんだ、麻保ちゃんは。哀しいな、麻保ちゃんがそういう女の子だったなんて」

「いえ、いえ、いえ、いえ、いい～～えっ！　私は、そういうことを知っていて付き合うような女の子じゃないです。本当よ」

「そうなの、だって、さっきは認めただろう、僕を彼氏代行だって」

　もう、いったいどういったらわかってもらえるのだろうか。自分は、純粋に海斗さんのことを思っていたんだって。

「これだけは、わかって！　私は、海斗さんのことが彼氏代行業でも家事代行業でもどっちでも構わないの。だって、海斗さんの中身が好きなんだから」

「ほお～～～そうか、良かった。それを聞いて安心した。彼氏代行の僕が好きだったのかと思って心配だったんだ」

「あああ～～～ん、違うってば」

　麻保はいたたまれなくなり顔を両手で覆った。こんな無様な顔を見られたくない。顔は真っ赤で、両目からは涙がこぼれている。

　すると、海斗が両手を広げて麻保を抱きしめた。それから麻保の両手をグイっとつかみおもむろに唇にキスをした。いつになく濃厚なキスに、麻保はたじたじになる。見られたくないのに、今度は真正面から顔を見ている。

　情熱的な海斗の唇は、麻保の口元から頬へ移動した。涙で濡れた頬を軽くついばみながらおでこへ、首元へ、うなじへと移動して、最後にこういった。

「会いたくなったら、いつでも僕を指名して。麻保ちゃん専用の彼氏代行業をしてあげるから」

　からかっているのだろうか。恥ずかしくて、返す言葉もない。

　海斗は麻保の体を引き寄せ片手で頭を軽く撫でる。髪の毛が海斗の指先に絡む。ふうっと息を吐きかけると静かに揺れた。

「いいね、ちゃんとこっちを見て返事をして」

「はい、海斗様」

　なぜか様をつけてしまう麻保だった。