第38話 おばあさんに嫉妬する

 二人で楽しく話し込んでいたら、いつの間にかバイトへ行く時間になっていた。海斗は時計を見ながら、残念そうに言った。


「ごめん、そろそろバイトに行かなきゃならない」

「もうそんな時間、あっという間だった」

「楽しい時間てすぐすぎるんだよね」

「そうなのよね」


 海斗は、バッグにエプロンとタオルを詰め込む。


「バイト先は、遠いの?」

「いや、そんなに遠くない。帰り道の途中だよ」

「えっ、そうなのね」


 それじゃ、一緒に帰ればどこの家かわかる。おばあちゃんて行ったけど、どんな人なのだろう。ひょっとしたら、会えるかもしれない。


「さあて、そろそろ行かなきゃ。せっかく来てくれたのにゆっくりできなくてごめん」

「仕事があるんだからいいの。気にしないでね」

「じゃ、一緒に行こうか」


 もらったプレゼントをバッグに入れて麻保は海斗と並んで歩いていた。しばらく歩くと、古い木造家屋の前で海斗が足を止めた。


「さて、ここなんだ」

「じゃ、仕事頑張って」

「また連絡するね」

「待ってる」


 そういってその場を離れたが、少しだけ歩いて立ち止まり後ろを振り向いた。すると、ぱたんとドアが開き白髪で腰を曲げたおばあさんが顔を出した。にこやかに海斗の方を見て微笑んでいる。あの人が呼んだのね。あの人にとっては海斗さんは孫みたいな年齢。話が合うんだろうか。


 そうだわ、後で仕事の感想を聞いてみよう。


 麻保は家に帰ると、部屋にこもった。海斗さんは料理をしたり、掃除や草取りなどの雑用をしたり、専門の業者のようなこともしている。しかもそれが彼氏代行のアルバイトだという。さらに、卒業したら独立して仕事をしたいとも言っている。はにかんだ笑顔が素敵だし、決して派手な生活をしていない海斗さんだが、本性はどうなんだろうか。私に隠しているところがあるのだろうか。実は女性から貢いでもらったお金をひそかに貯金して、そのお金をもとに派手に事業を始めようというんじゃないだろうか。


 気になる、気になる、気になる~~~!


 海斗さんの家にまで行ったのに、謎は深まるばかり。考えれば考えるほどわからなくなる。私は世間知らずなのか、はたまた海斗さんが一枚上手なのか。誰に相談することもできない。




 夕食を済ませてから電話してみた。


「お疲れさま、今日のバイトはどうだった?」

「ああ、おばあちゃん喜んでくれた。買いたいものがいろいろあったんだけど、できなかったからって。だから、買い物が大変だった。それに、夕食に煮物をたくさん作ってきた。とっても喜んでくれたよ」

「それはよかった。おばあちゃんにとっては海斗さんは孫みたいなものなんでしょう」

「そうなんだ。だから、僕にはすごく甘えてるんだよ。あっ、麻保ちゃんおばあちゃんの顔見てた?」

「帰りがけにちらっと見えた。上品なおばあさんだったね」

「うん、一人で頑張ってるんだけど、そろそろ施設を探した方がいいかもしれないけど、この街が好きだからできる限り住んでいたいって。力になりますよって答えたら、喜んでた」

「それじゃ、海斗さんの仕事はすっごく役に立ってるんだね」

「そうなんだ。便利屋みたいなもんだけどね」


 海斗さんは純粋に人の役に立つ仕事をしているだけなのかもしれない。勘ぐってしまって悪かったかな。


「でもね、一生懸命仕事してくれたから、買い物の釣りは取っておいてなんて言われたんだ。そんなの受け取れないって言ったんだけど」

「へえ……」

「僕に甘えたいのか肩をもんであげたら、大喜びされてさ」

「そう……」


 ああ、やっぱりおばあさんだっていくつになっても女なのよ。イケメンに甘えたくなるんだわ。買い物をしてもらうのは口実。そうやって、肩をもんでもらうのが本当の目的なのかもしれない。じっと黙り込んでしまった。


「あのさ……そこで黙っちゃうっておかしくない?」

「だって……おばあちゃんとも仲良くしてるんだもの。肩をもんであげただけだよね」

「当たり前だろ!」


 あ~あ、また焼きもちを焼いて怒らせてしまった。


「まったく、一番かわいいのは麻保ちゃんだよ」

「わあ、海斗さんたら」

「それじゃ、また連絡するから」

「うん、私も」


 だけど、ちょっとすねると慰めてくれるから、何をやっても許してしまうのよね。

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