第37話 海斗のプレゼント
麻保は、海斗のベッドに座ってみた。スプリングは程よく聞いていて、座り心地はいい。寝具からは、ふんわりと海斗のにおいがする。
この状況ってまずい、とってもまずい、だけどスリルがあるし恐怖もあるし、心臓の音がバクバクしている。
「隣へ座る?」
「ああ、そうだね」
なんだか気のない返事のような気がする。心配だわ、海斗さん。二人きりでこんな状況なのに、ドキドキしないのかしら。すると、海斗の腕ががしっと麻保の肩を掴んだ。あっと、これは海斗さん私に迫ってくるつもりなのね、と麻保が身構えたすきに、海斗の片手が麻保の頭の上に乗った。
おお~~~、積極的だわ。そして身動き取れないようにガシッと掴んだ。
「ちょっと、動かないで」
おお、わかってるわ。こんな時は黙って待つわよ。
「ああ~~~っ、取れた!」
「へっ」
目の前で見せられたのは巨大な蜘蛛。
「へっ」
「ほ~ら、こんな大きい奴が麻保ちゃんの頭の上に降りてきた、でももう大丈夫」
「きゃあ~~っ、やだ、やだっ!」
麻保は飛び上がって海斗から離れた。まあ、蜘蛛から離れたかったわけだが。なんだあ、私を掴んだのは、これを捕まえるため、期待してたのに。
海斗は窓を開けると、指でつまんだ蜘蛛をさっと外へ放り投げた。
「別に悪い奴じゃないから、殺さなくていいんだ」
「はあ、びっくりした」
「ほんと、どこから入ってきたんだろうね。窓を開けた時にひょっと飛び込んでくるんだろうね」
「もういないよね、そういう虫たち」
「いないと思うよ。確信は持てないけど」
とんだ邪魔が入ったわ。まさか蜘蛛が私たちの間に割って入ってくるなんて思わなかった。そうそう、タイムリミットがあるんだった。夕方から海斗さんはバイトに行かなければならない。それまでの時間しか、私には残されていない。
「海斗さん、一人暮らしって楽しいですか?」
「何、急にかしこまって。まあ、楽しんでるよ。っていうか、楽しむようにしている。つまらないと思ってると、本当につまらなくなっちゃうもの。実家に比べると家は狭いし、学生だから最小限のものしかないし。だけど、それもいいんじゃないかなって。シンプルな暮らしって、今しかできないでしょ」
「そうですよね、確かに。凄いなあ」
外にいる時よりも、とっても真面目に見える。再び部屋を見回してみる。机周りには小さな本棚があり、教科書や文庫本などがすっきり収納されている。日頃から整理整頓を心がけていないと、こうはいかない。
「私の部屋なんかめちゃくちゃですね。反省するなあ、もっと片づけなきゃ」
「あれはあれでいいと思うよ、部屋が広いんだから。物が少ないと殺風景になる」
「そんなもんかな。服も出しっぱなしだし、マスコットがあちこちに散乱している」
「綺麗に配置すれば、見苦しくはなくなるよ。麻保ちゃんの場合、それが個性だからいいけど」
「もう海斗さんったら」
「まあそれが個性だからいいんじゃない。麻保ちゃんだって、ホテルみたいに綺麗にかたずけられてたら落ち着かないでしょ」
「まあ、そうなんだけど」
自分の好きなものに囲まれて、安心してるんだわ。海斗さんの場合、クロゼットにしっかりしまわれてるんでしょうね。開けたら、どっと物がなだれ込んできたりして。へへへ。
「新しいものを購入したら、古いものは捨てないとね」
「わかってます。それはお姉ちゃんによく言われま~す。」
海斗さんは紙袋の中から何かを取り出した。おお、これは。なんと可愛らしい。
「これは?」
「プレゼント。麻保ちゃんのマスコットの仲間に入れて」
「海斗さんにそっくり。ありがとうっ!」
「えへへ、喜んでくれてよかった」
始めてもらうプレゼントは、何と海斗さんにそっくりな男の子のマスコット。二十センチくらいの可愛らしいイケメン。思いがけないサプライズに感激だわ。
「部屋に飾っておきます、海斗さんだと思って」
「ちょっと照れ臭いけど、嬉しい」
感激で海斗さんのほほにキスをしたら、満面の笑みで返してくれた。
「お店をぶらぶらしてたら見つけたんだ。なんか、俺に似てるかなと思って」
「そっくりです、可愛がります」
麻保はマスコットをぎゅっと抱きしめて、キスをした。
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