第33話 砂に潜る麻保

「これならいくら波が来ても大丈夫。どんどん来ていいわよ!」

「その意気です。僕に任せて、ほら掴まってれば大丈夫でしょう」

「はいっ!」


 っと、波が引いたときに返事をして、大波が来ると必死にしがみつく。何度も波が来てしがみついていたら、沖合に白い水しぶきが見えた。今までにないような大波がっ、押し寄せてくる。今までのとはスケールが違う。


「ああ~~~っ、今度の波は大きい! 怖いよ~~、わあっ」

「あっ、これじゃ顔を出していられないぞ。麻保さん、直前に、思いっきり息を吸い込んで、いいかな」 

「よしっ」


 麻保は気合を入れて、近づくのを待った。そ~れ、きたっ、今だっ。


「うお~~、ぷは~~っ」

「ふうう~~っ」


 二人は限界まで息を吸い込み、来たる波に備えた。


 ざっぷ~んと衝撃が襲い、顔を出していられなくなり、そのまま水中へ潜る形になった。脚は当然つかないので、ゆらゆら波間に揺れている状態だ。


 うう~~っ、どれだけ待てば波が引くのかな。早くっ。息が続かなかったらどうしたらいい? このまま沖合へ引きずり込まれて、海の藻屑と消えてしまうの。と不安でいっぱいになる。


 うう~~っ波よ、早く、早く去ってしまえ、と念じてほんの少しづつ息を吐きだしていたら、トントンと肩をたたかれた。助かったのか?


「ほら、もう大丈夫でしょ」

「ぷは~~~っ、苦しい~~」


 麻保は目を開けて、周囲を見回した。波は砕けて無数の白い泡と化していた。

ああ、どうやら切り抜けられたようだ。


「大きかったなあ、海を甘く見ちゃいけませんね」

「ほんと、驚きました。よかった~~。ごほっ、ごほっ……」


 麻保は海斗にしがみついたままだったことに気が付き、体を離した。安心しきっていたようだ。


「大丈夫? 水を飲んでない」

「なんとか、息が続いてよかった」

「思ったより、大きい波も来ますね。ちょっと浅瀬へ戻る?」

「そうしましょう」


 波打ち際へと戻り、しばらくバシャバシャと水かけっこをして遊んだ。そんなことをしていると、次第に浅瀬へと向かい、パラソルのある場所まで戻ってしまった。


「戻ってきちゃった」

「そうだね、ちょっと休憩しようか」


 麻保は砂の上にぺたりと両足を投げ出して座ってみた。


「砂があったかくて気持ちいい~」

「本当だ、体が冷えたからちょうどいいな。少し体を温めよう」

「そうだ、脚の上に砂を載せますよ。そうすれば日焼けしないで済むし」

「いい考えですねっ、やってみたいです」


 海斗は足が入るように、手で掻き出して窪みを作った。その中へおしりと足をすっぽりと沈み込ませ、上から砂をかけた。


「おお、下半身が隠れちゃいました。どうせだから、寝転がっちゃおうかな」

「それがいい、頭の部分はシートに乗せて、枕はバスタオルを使えばいいから、転がってみて」


 麻保は言われたとおりにやってみる。


「そうそう、いいじゃないですか」

「わあ、空が見えていいなあ。雲がぽっかり浮かんでて、のどか~~」

「体にも砂をかける? 嫌ならいいけど」

「嫌じゃないです、やってみましょう。どんな感じかなあ」

「よいしょ、よいしょっと」


 海斗は周りの砂を手で掬っては、麻保の体の上に乗せる。だんだん見える部分が少なくなっていく。


「砂が、ほこほこして、あったかいですねえ。わあ、だんだん体が見えなくなっていく」

「いいですか。砂まみれになっちゃうけど」

「大丈夫。どんどん乗せてください。もっと上の方まで。ほら、胸のあたりが隠れるまで」

「そうですか。体が砂に埋もれてしまいますよ~~~」


 今度は、麻保を怖がらせるように、砂をひとすくい、ひとすくい胸の上に乗せる。


「子供のころの砂遊びみたい」

「楽しいですね」


 砂がどんどん増えてくる。


「重くないかな?」

「それほどでも、まだ平気ですよ」


 このくらいなら、自分の力ですんなり立ち上がれそうだ。


「そっか、じゃ、もうちょっと乗せちゃおうかな」

「は~い、まだまだ、平気です」


 すると、手で掬った砂を体の周りにも置いたり、麻保の体の上にも乗背たりしているうちに、砂がこんもりとしてきた。


「もうそのくらいでいいかな……」

「そうだよね、だいぶ砂に埋もれちゃった。息はできる?」

「できます、ほらこの通り」


 麻保は、すうすう~~っと深呼吸してみせる。完成すると、海斗は麻保の体のすぐわきへ来て座り、ペットボトルの水を飲んだ。


「うわあ~~、染みるなあ」

「ああ~~、私ものどが渇きました!」

「潜っちゃったね、どうやって飲む?」

「……あっ、砂にもぐる前に飲めばよかった」


 すると海斗はペットボトルの蓋を開け、麻保の顔のそばへ持ってきて容器を傾けて飲ませてくれた。なんか、いいなあこういうの。 

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