第30話 私は契約彼氏の本物の彼女
「海斗さん、あのう」
「なんですか、麻保さん」
ちょっとためらってから、麻保は思い切っていった。
「あの、こんなことになったので……」
こんなこととは、ファーストキスをしたことだ。
「私の方から連絡したり、デートしてもらったりしていいんですよね」
「もちろんですよ、麻保さんから連絡が来たら、いつでも飛んでいきますよ」
「それから、私は海斗さんにとっては特別の彼女ってことですよね」
「当り前ですよ。麻保さんは特別です」
海斗と契約彼氏として付き合っているほかの女性たちと比べて、今や自分は別格なのだ。
わあ、素敵な言葉。自分は特別な女性。いつか聞きたかった言葉だ。夢がかなった。
麻保さん、なんか疑り深いなあ。
「そうだ、今度ぼくの家へ遊びに来て。いいよね」
ダメなわけがない。もちろん返事はオーケーだ。
「はい、お邪魔します」
「それじゃ、さっそく今度の日曜日はどう?」
「仕事は、大丈夫ですか。土日は良く仕事が入っているのでは?」
マダムの家にも休日に行っていた。普段仕事をしている人も土日に呼び出すのではないだろうか。
「次の日曜日、三時ごろには仕事が終わってる。もし、他の人から連絡があってもその時間は空けとくから、大丈夫」
「わっ、素敵」
他の人からの誘いを断ってくれるなんて、感激で胸が熱くなる。家に遊びに行ったら、どんなことになるのだろうか。想像しただけで、興奮してしまう。眼がウルウルしてくるのが自分でもわかる。
家に帰ってそのことを姉の未津木に話すと、慌てふためいていた。顔色が青ざめて、おどおどしているではないか。
「えっ、麻保、本当の彼氏と彼女になるって、どういうこと!」
「だから、海斗さんと付き合うってこと。いけないわけないわよね。お互いに独身だし、まあ、高校生と大学生だから年の差は多少あるけど、問題ないでしょう。それに、犯罪にかかわってるわけじゃないし」
「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
「わかってるわ。彼は契約彼氏で女性たちみんなのものってことは私も承知しているつもり、そのバイトについては理解してるわ」
「そんな、そんな契約彼氏のバイトをしている男子と、本気で付き合うつもりなのっ」
「そこは、うまくやるわよ。そして、私に夢中になれば、そっちのバイトは断ってくれるわ。現に、もう一軒断ってくれたんだから。そして、最終的には、海斗さんは私専用の彼氏になるってこと」
これからの計画について麻保は語った。これは麻保の願望だ。
「じゃあ、しばらくの間は契約彼氏として、ほかの女子と付き合いながら、麻保とは本気で付き合うって、そういうこと」
姉の方も、海斗が契約彼氏などではなく、家事代行のアルバイトなのだということを知りながら、自分が言い出した手前まだ暴露できない。
「なんか、お姉ちゃん、変ねえ」
「何が変なのよ」
「私に隠し事してるみたい、違う?」
「してないわよ」
「だって、そうじゃない。可愛い妹に初めて彼氏ができたんだから、喜んでくれると思ったのに、嫌がってるみたいだもの。さては、お姉ちゃんも海斗さんに気があるんじゃないの?」
「違うってば、私のタイプじゃないわ。ただ、私は麻保がちゃんと付き合えるかどうか、心配してるの。そんなにとんとん拍子に付き合うことになるなんて、しかも契約彼氏をやって人と」
そうよ、契約彼氏だと思いながら付き合うって、麻保ったらどうかしてるわよ。私はそれが心配なだけ、と未津木はやきもきした。
「心配してるみたいだから、デートについては逐一報告するわ」
もちろん話せる範囲のことだけど、と麻保は心の中でにんまり笑った。誰にも言えない秘密ができるかもしれないんだものね、これから。
「そうしてよ、私に隠し事はしないこと」
「分かってるって、それじゃ、そういうことでこれから海斗さんは私の彼氏だから、よろしく!」
未津木の心配は、さらにエスカレートしそうだった。
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