第28話 海斗からデートの誘い
もしかして海斗さん、喜んでいる?
だけど、変な質問だった。契約彼氏に、彼氏がいるかどうか訊かれるなんて。
海斗は、麻保が友達もなかなかできなくて困ってると言っていたことを思い出した。
「僕、麻保さんの話し相手になります。話し相手がいなくて、退屈していたときでいいから」
「えっ、嬉しい。クラスの男子とは、ほとんど話したことが無かったから。海斗さんと話しができたらいいです! だって、話しやすいし……」
そうか、自分は気軽に話せる雰囲気があるのか、やっぱりと海斗は微笑んだ。これは、将来仕事をした時に役に立つことだ。得意げに話を続けた。
「よく言われるんだ、話しやすいタイプだって。つんと澄ましていて、格好つけたやつだと思われるよりはずっといいです。だけど、軽い奴だと思わないでほしいけど」
「そんなふうには思ってないです! とっても、謙虚な人です」
「ほお~~、そうかな」
海斗は照れ笑いをした。
「麻保さんて、いい人ですね。そうだ、この後何か予定はありますか?」
これは本当のデートの誘い、ときめく。
「いいえ、特には」
「じゃ、僕とちょっと付き合ってもらえませんか?」
「はっ、はっ、はっ、はいっ! どちらへ?」
「水族館へ行ってみたいんです。新しくできた水族館なんだけど、なかなか機会が無くて行けなかったんです」
「いいですねえ。私お魚、だっ、大好きです。鯛や、平目、アジに鯖。蟹なんかもいいわねえ」
「あの……いけすを見るわけじゃなくて、水族館なので、ちょっと違うかも」
「そうでしたか」
「魚だけじゃないんですよ。クラゲや水辺の生き物たちもいます」
「へえ、楽しみ。さあ、さあ、食べたら行きましょう!」
麻保の食べるスピードが上がった。一人では行きずらかったので、誘ってみたのだが、大喜びしてる。
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水族館に着いて、入り口でチケットを二枚購入した海斗は一枚を麻保に手渡をうとした。
財布の中から、お金を取り出そうとしている麻保に「いいですよ。僕が誘ったんだから」というと、「すいません、どうも」と麻保が受け取った。
ビルの中にある水族館は、外界と隔てられているようで、秘密めいていて幻想的だった。ライトで照らされた魚たちが、透明な空間の中で泳いでいるように見える。
場所柄水槽はあまり大きくはなく、魚も小さなものが多かったが、その中でちょこまかと動き回る姿はかわいらしかった。色鮮やかな熱帯の魚たちは、光の中でまるで宝石のようだった。麻保が歓声を上げた。
「わあ、綺麗!」
「熱帯の魚は、色鮮やかで美しいですね」
「サンゴ礁の間を泳ぎ回ってる姿が目に浮かぶな~」
「うん、見てみたいですね」
「はいっ」
クラゲが水中でゆらゆら揺れる様も神秘的だ。
「泳ぎ方が楽しい~」
「彼らなりに、必死で泳いでるんでしょうけど」
「こんなにゆっくり泳いでいたら、すぐ敵に食べられてしまいそう」
「半透明だから、見つかりにくいんでしょうね」
お互いに感想を言い合いながら、さまざまな種類のクラゲたちを見た。
水槽をのぞき込むと、自ずと二人の距離が接近する。
「わあ、海斗さん日焼けしましたね」
「やっぱりわかるよね。外で仕事してるから、ずいぶん日焼けしちゃった。Tシャツの線が付いちゃってかっこ悪いな」
「ほんと、線がついちゃいました」
汗をかいて、シャツに着替えたので来ていたTシャツの裾の所で、くっきりと日焼けの跡がついてしまっていた。
「あの……海斗さんはそういう雑用ばかりやってるんですね」
「うん、雑用って、草取りとかですか」
「ああ、気を悪くしないでください。なんか、肉体労働ばかりやってるので、大変だなと思ったんです」
「そうですね、確かにあまり頭脳を使ってませんね」
「いえいえ、そんなことはないんだけど」
「いいんですよ、結構楽しんでやってるから」
「楽しんでるんですか……」
美人に頼まれれば、肉体労働も苦にならないのかもしれない。
「でも、こうして一緒に外へ遊びに行ってくれるのはうれしいです」
これは私だけの特権かもしれない。
「さっきのおうちの奥様とは、外でデートはしてないのですか?」
「してませんよ」
「わあ、じゃ、これはかなり特別なんですね」
「はい、プライベートですから」
麻保の体温は上昇し、体中の血が熱くなるようだった。
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