第27話 ランチタイムに大興奮の麻保

「いただきます……」


 嬉しさで胸がいっぱいになり、麻保はもらったパスタをくるくる巻き取り、口に入れる。トマトソースの酸味と肉汁が解けあい口いっぱいに香ばしい香りが広がる。


「美味しい~~」

「そう? じゃ、僕もいただきま~す」


 サンドウィッチは、ハムとチーズにレタスという組み合わせでシンプルだが美味で、一口食べただけで、来てよかったと確信した。 

 

「これも美味しい。一つ、どうぞ」


 麻保は、海斗の皿に一切れ載せた。


「おお、ありがとう。うん、美味しいな」

「でしょうっ!」

「お姉さん、いい店を教えてくれたね。また食べに来よう」


 麻保は、また誘われたのかと思い返事をした。


「はい、来ましょう。姉は、食べ物にはうるさいから、美味しい店をいろいろ知ってるの」

「それはいい。そういえば、買い物をした時の食材も、結構凝ったものがあったな。調味料なども、珍しいものが入ってた」

「まあ、ネットで調べたものの受け売りなんでしょうけど」

「でも、そうやって調べてでも材料を集めて作ろうって気持ちがすごいな」


 海斗は感心している。そんな様子を麻保は、じっと見つめている。料理も結構好きなのかな。


「私もネットでいろんな料理のレシピ、調べてみようっと」

「珍しいのが見つかったら、僕に教えて!」

「はいっ!」


 意気投合して大興奮の麻保!


「ジュースはどうかな」

 一口飲むと、しっかりと果汁の味がした。


「ジュースも美味しい!」


 今日は何を食べても美味しいな。一緒に食べる人が素敵だと、料理まで最高になる。


 麻保はごくごくとジュースを飲んだ。空腹だった海斗も、せわしなくフォークを回している。


「美味しい!」

「あの……仕事は毎日やってるんですか?」

「あれ、お話ししなかったっけ。僕大学生だから、休日だけしか仕事してないんですよ。ほぼ土日はやってます。平日は、まじめな大学生です」

「平日は、まじめに勉強しているのですね。どのくらいバイトはあるんですか? まあ、答えにくかったらいいんですが」


 麻保は、パタパタと手の平を振った。


「そんなには行けないな。一日一件か二件ぐらいが、せいぜいです。それ以上は……」

「ですよね。気も使うし」

「大変ですからね。結構」

「そりゃ、まあ、大変ですよね、ハハハ……」


 麻保は、話しながらサンドウィッチを平らげた。土日だけの仕事、でも大変なのか。いろいろな女性と話を合わせなきゃならないからだろう。この仕事にもそれなりの苦労があるのだ。


 ごくりとつばを飲み込み、呼吸を整えた麻保が質問をした。今まで聞こうと思っていたことだ。微笑みながら、余裕ある態度を作るが、内心は余裕など全くない。


「大学では、彼女さんとかいるんですか?」


 海斗は口をもごもごさせている。口いっぱいにパスタを詰め込んでいるせいで、すぐには答えられない。


「う……ぐっ……」

「……」


 飲み込むのを待つ麻保の額には、汗が滲んでいる。


「うっ」

 胸をたたいた。


「……あの……大丈夫ですか」


 ドリンクを飲み、ふ~っと息を吐き麻保の目をじっと見つめる。


 答えを期待する麻保に、真剣なまなざしを向けた。


「大学には、いません」


 大学には、いないという答え! 質問の仕方が悪かった。


「それでは、ほかの場所にいるんですね?」

 ああ、こんな質問おかしい。


「ほかの場所にも、彼女は……いません」

「そう……ですか」


 バイトの彼氏だけということ。本物の彼氏として付き合っている彼女はいないのか。ほっとして、笑みが出そうになるのを我慢し、努めて平静を装う。


「そんな質問をして、麻保さんこそ彼氏、いるんですか?」

「……えっと」


 海斗さんは契約彼氏だから、本当に付き合っている彼氏はいないわけか……。


「いません」

「へえ」


 海斗ははにかむように麻保を見ている。このくすぐったいような彼の視線はどういう意味? 

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