第25話 ライバルは華麗な年上の女性

「ところで、お部屋の模様替えはどうしますか?」

「ああっ、そのことですか」


 前回はカーテンを洗い、部屋をひとしきり片付けて終わった。クロゼットなどは作り付けのものだから何もすることはないし、ベッドと机の位置も変える必要はないような……。


「差し出がましいかもしれませんが、僕はあのままでいいと思うんです。家具は、一番いい位置にあると思うし」

「そっ、そうですか」

「まあ、気分を変えたいんだったら、気分転換にはなりますが。大きい家具を移動させるのは、結構大変じゃないかな」


 ちょっと考えるふりをする。


「そうですよね……じゃ、やめておこうかな~」

「あのっ……勘違いしないでください。僕は決して仕事したくないといってるんじゃありませんし、家具を動かすのが大変だからではないので……」

「模様替えのことは、もういいです」

 と返事をした。

 

 元々やりたかったわけではなかったのだ。海斗に部屋へ入ってもらう口実だった。海斗はほっとしてしたようだった。


「ああ、そろそろ着きますよ」

「それじゃ、私は、この辺りで待っています」

「玄関までいかないんですか。すぐですよ」

「家の人に会うとご迷惑でしょうし、海斗さんも仕事中に外へ出るのも気が引けるでしょうから、目立たないように、さりげなく持ってきてください」

「わかりました。草取りをするので、どうせ外へ出るので、その時に持ってきます」


 麻保は安堵した。相手の女性に出くわすのはまずいような気がする。


「それじゃ」

「はい」


 海斗はナンシーを抱いて家の中へ入り、軍手とTシャツを持って出てきた。門の外で小さく手を挙げて合図している。秘密の約束をしているようで、ときめく。


「ありがとうございます!」


 Tシャツを素早く受け取り、ぎゅっと抱きしめた。


「奥さんは……家の中ですか、それとも外に?」

「庭に出ていらっしゃるみたいです」


 塀から自分の頭が飛び出さないよう、身をかがめる。


「大丈夫ですよ。雑草の伸び具合を確認していますから。ほら向こうを見ています」


 麻保に背を向け、緩いワンピースを身にまとった若い女性が庭にいた。庭木で体が隠れる位置に移動すると、横を向いた。斜め方向から見ても、美しい女性だということが分かる。よく手入れされた美しい庭と調和している。まさにこの人のための庭。庭でさえも彼女の引き立て役!


「綺麗な方……」

「そうですね」

「それにスタイルもいいし……あああ」


 完全に負けてるわ~~~私! 自分って、なんて子供なんだろう!


 こういう場合、海斗としてはどちらかの肩を持つわけにいかないので、同意もできない。


「どうしたんですか、麻保さん、イライラして」

「してませんけど……あんまり素敵な人なので。それに上品な雰囲気があって、きっとお話ししても楽しいでしょうし」


 ふう、ッとため息が出た。彼氏に不自由しそうもないようなあの人が……しかも旦那さんがいるのに海斗さんを呼ぶなんて、もうっ、なんて羨ましい身分!


「そんなに睨まないでください。奥さん、殺気を感じて振り向きますよ。それじゃ、後で」

「そうでした。ランチは駅前のカフェで待ってま~す!」


 踵を返して帰り道を行く。思わずスキップして、またミッキーにワンワン吠えられた。


「ミッキー、今日はいいことありそうよ」


 帰ってしばらくすると、海斗からメールが来ていた。


 まさか、今日の予定はキャンセルなんて言わないでね。


 ……そんなことはなかった。


 確認のメールが入って、気分は二重丸だ。予定通り12時に会いましょう。最後にスマイルマーク付き。さらに心は軽くなった。

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