第19話 海斗の体を見る麻保

 玄関に入ると、申し訳なさそうに海斗がお辞儀した。

 

「家で留守番をしていたほうがよかったかな?」

「まあ……私も外へ出かけたかったので、いいんです」


 キッチンで荷物を下ろし、買った商品を種類ごとに冷蔵庫、収納ケースなどの場所へ納めていく。


 二人とも片方の肩から下がずぶぬれになっていた。髪の毛からはしずくが垂れている。麻保がいった。


「タオルを持ってくるので、待ってていてください」

「ああ、自分のハンドタオルを使うからいいですよ。いつも用意しているので」

「流石! 用意がいいですね。でも、大きいタオルのほうがいいから」

 と急いで取りに行く。


「おお、悪いです、すいません!」


 恐縮して海斗はタオルを使った。麻保も頭や服にしみ込んだ水気を急いでふき取る。まるでお風呂上がりのようで、拭き終わるとシャワーの後のようにさっぱりして気持ちがよくなった。だが、服は濡れたままで乾きそうもない。


「あ~あ。服が濡れちゃいましたね。私、ちょっと着替えてきますっ!」


 麻保は、慌てて部屋へ戻り乾いたTシャツに着替えた。下着まで脱いで着替えると、乾いた布の感触が肌に心地よくなった。


「おお~~っ、さらっとして気持ちがいい」


 部屋へ戻ると、びしょ濡れのままの海斗が立っていた。私ったら、自分だけ慌てて着替えちゃった。


「そのままじゃ、風邪をひいてしまいます。着替えないと……」

「着替えまでは持ってきませんでした。時期に渇きますよ。心配しないで」

「でも……あっそうだ」


 麻保は再び部屋へ戻り、大きめのTシャツを一枚クロゼットから取りだした。細身の海斗さん、これなら切られそうだわ。


「これを着てください!」

「ええっ、そんなあ。そんなこと……いけませんよっ。僕はこのままで……ヘ~~ック、ション!」

「ほら、ほら。早くしてください、見てる方もつらいから」

「そ、そうですか……では」


 Tシャツを広げてみると、胸には猫の柄のプリントが……。


「わあ、これを着るんですか?」

「あれっ、恥ずかしいですか?」

「まあ、ちょっと。女の子みたいだし」

「私は向こうを向いていますので、さあ、さあ、急いでください」

「じゃ」


 海斗も後ろ向きになり、着てきたシャツを脱ぐ。湿り気でべったりと肌に張り付いていたシャツを脱ぎ、水気をタオルでふき取る。下着まで濡れていたので、思い切って脱ぐことにした。


 後ろを向くといった麻保だったが、好奇心には勝てずつい後ろを向いてしまった。相手は向こうを向いているはずだから、目が合うはずがない。


すると、下着のシャツを脱い上半身裸の状態の海斗の姿が見えた。


 わっ、見ちゃった!


いけないことはわかってるけど、見ちゃった!


素敵な後ろ姿……すらりと引き締まった体躯、かっこいい。


アクシデントとはいえ自分に覆いかぶさってきたのだ。想像すると、体が熱くなる。また触れてみた……わっ、わっ、私ってこんなことを考えてしまった。いけない、イケナイ。どうかしてる。


「着替えました」


と突然振り返った海斗と目が合った。


「こっち見てたんですか!」


 大慌てで、海斗は怒ったような表情をするが、本気で怒っていないことはなんとなくわかる。


「いいえっ、もうそろそろいいかな、って振り向いたばかりです! そう、振り向いたら、目が合ったんですっ!」

「本当ですか~~?」

「本当です。見ようなんて思ってません! 私は、そんなずるはしません!」

「ふ~ん、そうですか~~。それならいいです」


 こんなの弁解にしか聞こえない。ずっとこっちを見ていたんだな、と海斗は少しからかってみたくなった。


「で、見た感想は? どうですか?」

「どうって、どういう意味ですかっ!」

「そのままの意味です。僕の体を見た感想は?」

「感想って?」

「恰好良かったとか、そうでもないとか、痩せてたとか」

「そんな……体は体です」


 どぎまぎして、焦りまくっているぞ。もっと困らせてみようかな。

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