第14話 契約彼氏って何?

 海斗はメールをチェックした。すると、会社から次の仕事の依頼が入っていた。来週も藤堂家から呼ばれている、希望は土曜日の午前中、この時間帯、学生の身には都合がいい。お得意さんになってくれそうだ。


 希望あり、と返信した。あとは会社で返信することになっている。直接のやり取りも禁止されているのだ。


 

 そのころ藤堂家では……。


 姉未津木が妹の質問攻めにあっていた。


「ねえ、あの契約彼氏の杉山さんって、ほかの家にもバイトに行ってるの?」

「そうよ」

「ほかにはどんな家でバイトしてるのかなあ?」

「いろいろでしょう。私も詳しいことは知らないの。だって、顧客の情報を流しちゃいけないから絶対に本人は言わないでしょうし、お互いが知り合いだったら気まずいでしょう」


 と言ってから、アッと口を押さえた。大体ここへ来てもらったのは友人の紹介だった。絶対に妹には秘密にしておかないと。


「うちに来てくれている時だけ、彼氏ってことよねえ。それじゃ、外でデートなんかしちゃまずいの?」

「それはだめなんじゃないかな。ほかのバイト先の人とばったり出くわすなんてことがあると、大変でしょうから。そこはわかってほしいわね」

「本当にそうなのかな。何か仕事をしてもらわなきゃいけないんだったら、してもらえばいいわけでしょ。だったら、買い物に行く、って口実で出かけられないの?」

「う~ん、難しいわねえ。どういう取り決めになってるのかどうか」


 二人で出かけるなんてことは、あまりしてほしくない。知り合いに会ったら、自分のウソがばれてしまう。


「ただし、何度も言うようだけど、契約彼氏なんだから、くれぐれも気を付けて。本物ではないんだからね!」


 割り切った付き合い方をしろってことか。ちょっと寂しい彼氏だな。本気になってはいけないらしい。呼んで給料を払えば必ず来てくれる話し相手にはなってくれるが、そこまでってこと。


「あのさ……彼のことを聞きたがってるけど、相当興味がありそうねえ」

「えへへ、だって彼とっても話しやすいし、こちらは警戒心を持たないでいられるし、私にはピッタリのお相手」

「珍しい人ね。あんたって男の人だというだけで、がちがちに武装して、話なんてろくにできなかったのに。いろいろおしゃべりして、楽しくなってきたのね」


 麻保がどぎまぎしていう。


「まあ、そんなところかな」

 麻保に限ってないだろうけど、釘を刺しておこう。


「それはいいんだけど、本気にはならないこと。いいわね」

「わかってるって……」


 姉の取り計らいで、少しは男性と話ができるようになってきた麻保。これからは普通に話ができるようになりそうだが、それができるかどうかは今のところまだわからない。ほとんどシャイを通り越している。やはり外へ行けば、男性と話をしたことは全くない。道を聞くときにも、女性が通りかかるまで待っているくらいだ。


「だけど、契約彼氏なのに、来るといつも食事を作ったり部屋の片づけしてるんだけど、ただ座っておしゃべりをするだけじゃダメなの?」

「えっと……それはねっ……」


 未津木はゴホンと咳払いした。


「ただ座ってるだけじゃ手持無沙汰だし、話題がなくなっちゃうじゃない。だから、いろいろなことをしていたほうがいいっていうか、そのほうが我が家のためにもなるから。いろいろと助かるのよ」

「ああ、わかった。お姉ちゃんたら、自分の家事の分担が減るからいろんな用を頼んでるわけね」

「ばれたかっ……」

「そうか……すいませんね、いつも」

「そうよ! 一石二鳥ってこと……」

「いいこと言うね、一石二鳥か!」


 何とか疑われないですんだわ、と姉はほっと胸をなでおろした。世間知らずで、単純、こちらが言ったことをすぐ信じるところがわが妹ながらかわいい。 


 さて、一週間が過ぎ今日も杉山さんがやってくる。来る日が楽しみになった麻保だった。

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