第12話 若奥様から仕事の依頼が

 翌日の日曜日は別のお宅の仕事の予定が入っていた。こちらも大きな庭のある家で、依頼主は専業主婦とのこと。掃除が大変なのか、大家族で家の中がてんてこ舞いして、猫の手も借りたいぐらいなのかと、構えていったのだが、まったく予想に反していた。


 モダンなつくりの新築の家には新里と表札がつけられていた。


「いらっしゃい、よろしくお願いしますね」


 といつも出てくるのは、若い奥様。初対面の時は自分とあまり年齢は変わらないのではないかと思われたが、話をしているうちに多少年齢だということがわかってきた。高校を卒業してから数年間働き、職場で出会った男性と結婚したのだという。ふっくらした顔立ちの頬はバラ色で、若妻らしいほのかな色香が伝わってくる。


 毎週仕事を依頼するのは、口うるさい義理のご両親に挟まれて苦労されていて、気晴らしもかねて呼ばれているのかとはじめは想像していたが、それも違うことが分かった。旦那さんと二人暮らしだった。経済的に余裕のある旦那さんを持っているのだろう。仕事を始めてからすぐに依頼のあった家なので愛着があるし、週に一度は呼んでくれているので、大切なお得意さんになっている。今回で数回目になる。


「こんにちは!」

「あら、いつもありがとう」

「こちらこそご依頼ありがとうございます。広いお宅だから、いろいろ仕事が多くてお困りのことが多いいのでしょう。お庭の手入れも慣れないと大変でしょうから」

「そうなのよ。いろいろやらなければならないことがたくさんあって、そういうわけなので、今日もよろしくお願いしますね!」

「はい、何なりとおっしゃってください」


 世の中にはこういうふうにとんとん拍子にうまくいって立派な家に住める人もいるんだな、とうらやましくもあるが、社会勉強をしに来たと思い、ひがみ根性は捨てて心をクールにして臨む。


「まあ、頼もしいわ。今日は日頃できないところをお掃除してください」


 そ~ら来た。本格的な夏を前に、定番のエアコンの掃除かな。それとも、自分でやるのは大変な換気扇の掃除。はたまた風呂場の隅々まで、掃除かな。若い男性と知り指名してくるのは、力仕事をしてほしいからだろう。


「キッチンをお掃除していただきたいの」


 そっか。結構油汚れなどがこびりつくと面倒だからな。


「お任せください」


 油汚れを落とすクリーナーを取り出し換気扇やキッチン周りにこびりついた汚れを取り除いていく。踏み台を使い、天井まで雑巾がけしていくと、面白いように汚れが取れ本来の色が姿を現した。


「うわあ~~、嬉しいわあ、こんなにきれいになるなんて、元の色がわからなくなるぐらいだったのね。感激~~~」っと両手を胸に当て、オーバーに歓声を上げた。女子高生のようなポーズだな。


 次に床も汚れを取ってからワックスがけをし、磨きをかけたら顔が映るほどピカピカにになった。素足で歩いてもべたべたせず気持ちがよい。


「ずいぶん汚れてたのねえ」

「なかなかワックスがけまでするのは手間がかかりますからね。また汚れたら呼んでください」

「えっ……ええ。さ、さあ、綺麗になったところで、ちょっと休憩して、お茶でもいかがですか」

「そ、それは……ご遠慮します」

「もうっ、いいじゃないですか、少しぐらい。私もちょうど飲みたかったんですよ、だから……いいでしょ?」


 っと、色っぽく流し目をする。こういう視線を向けられると困るな、仕事中なんだから。


「ほらほら、遠慮しないで、内緒にしとくから」

「あっああ、はい……」


 内緒って程の事でもないが、それならばとお言葉に甘えることにした。あまり強く断るのも、後々の仕事のことを考えるとよくないのだ。


 さあさあ、と椅子を引いた。そこへ向けてグイっと肩をつかまれて座らされた。この人だんだん強引で馴れ馴れしくなってくるぞ。

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