第11話 急接近

 背は高いとはいえ、麻保に比べればかなりスリムな俺の体に、麻保の体が乗っかっているっ! 


 すごい弾力! 重圧感! 上から押さえつけられている!


 乗っかっているのは、麻保のメリハリのある体! 


 この姿勢、硬い床と弾力のある肉塊とのサンドイッチ。苦し~~い!


 早くどかないのか! 自分でもどんな状態なのかわかるだろうに。なぜ動かないんだ。早くどいてくれっ! 


 重いっ、重いんだよ~~~!


「うう~~~っ、ちょっと……」


 もぞもぞと体を動かすと、さらに麻保の体が密着する。


 どかさなければ、と両手で体をつかもうとしたら、くびれた腰のあたりに両手が回り、まるで体を抱きしめているような格好になった。


「あっ、何をするのっ!」

「どかさないと……」


 仕方がないじゃないか。


 ぺったりと力を抜き体全体で包まれてしまっている。どかすにはこうするしかないんだから。と納得させて体をくるりと回転させようとした。


「ああ~~~っ、今度は何それ! そんなことしちゃ……あああ~~~~ダメ~~~~」

「だって、僕の上に麻保さんの体が、乗っかってるんだもの。早くどいてくれなきゃ、まずいでしょう」

「あっ、そうでした」

「自分で起き上がれますか?」

「たぶん……」


 自分で落っこちてきて手足をばたつかせている。


 見かけよりはずっと重量があり、成長するべきところはしっかり成長している。こんなこと考えちゃいけなかったのだが、そっちから乗っかってきたんだから仕方がない。


「す、す、す、すいませんでした。もちろん、わざとじゃありません」

「そんなことわかってますよ。大丈夫気にしないで。よくあることです」

「へっ、よくあるんですか! こういうことって!」


 こうして抱き合うのが、よくあることとはこの人すごい世界に住んでるんだ。ごくりと唾を飲み込んだ。


 初めて触れた男の人の肌、筋肉がムキムキしていて、それでいて引き締まっていて、自分の柔らかいフワフワのマシュマロみたいな肌とは大違い。まるで別の行きもの。いや、別の星の人のよう。見たことないけど。


「そうですよ。ベッドから落ちて転ぶなんて、よくあることです。大したことじゃない」と慰める。


「ああ、そっちですか」


 何を想像していたんだろう、私って。と麻保は、顔に血が上った。海斗も怪訝な顔をしている。


 だが、すぐには元の状態には戻れなかった。体中にまだ海斗の体の感触が残っている。立ってはいるが、自分の足で立っているような気がしない。フワフワと宙をさまよっているような気分。


「まだふらついていますね。座っててください。僕が取りますから」

「ああ……はい……そうですね」


 どんな言葉を発したらいいのかわからない状態で、麻保はベッドにへたり込んでいた。


「じゃ、僕は洗濯してきます。部屋の片付けも大方終わったようなので、これで失礼します」

「ああ……それじゃ……まあ、どうぞ」


 ああ、行ってしまった。麻保はため息をつき、自分の両手で体触ってみた。私の体に海斗さんの体が……、うわあ~~~っ、大変なことをした! しかも、何気なく腰に手なんか置いちゃって、私が騒がなかったらどうするつもりだったんだろう!


 今日は大接近できたし、部屋にも来てくれて身近に感じることができた。


 さて、次は何が起こるのだろう。




 ノックの音がして姉の未津木が入ってきた。


「ねえ、今日はどうだった?」

「どうだったって、それがね……。私がひっくり返って、海斗さんの上にどしんと乗っかって、海斗さんは大慌てで、私も大慌てで、だけど肌と肌が触れ合って、うううう~~~っ大変なことになった」

「へえ、それは幸運なアクシデントね。体に触れるなんて」

「そんなんじゃないわよ」

「まあ、まあ、落ち着いて!」


 これが落ち着いていられますか!

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