第9話 麻保を片付けられない女だと思い込む海斗
ベッドの上にかけられていたであろう布団は、団子のように足元のところで丸まっている。部屋の隅にはバッグがいくつも置かれ、その上に何層もの布、いや脱ぎ捨てられた服が載せられている。
片づけられない女……という文字が海斗の頭の中に浮かび上がった。
可憐に見える彼女も、所詮だらしのない片づけられない女なのか。そうと分かれば、片っ端から広げて、それぞれの品を元あった場所に収めることにしよう。簡単なことだ。
「先ずは部屋の片づけをしましょう! どれをどこに収納するのか、指示してください!」
「ああああ……」
情けない、という言葉が麻保の頭上を飛び回った。予定されていたこととはいえ、男性にこんなところを見せてしまい、奈落の底に落とされた気分。だが、気丈にも麻保は立ち上がった。だって、うっかりこうしてしまったんじゃないんだもの。仕事をしてもらうためににわざとしたこと、と両足で地面を踏みしめ仁王立ちする。
場所はフローリングの床だけど。
それを見た海斗は、苦笑いした。
うわあ~~、笑った顔も素敵だわ。まんざら悪いことじゃなかった。てへへ……っと、麻保はその笑顔を独り占めしている気分になっている。
一方、海斗は散らかった服を端から一つ一つつまんでいく。においをかぐわけにはいかない。洗濯済みかどうかは見た目ではわからない。
「これはTシャツですね。それから、その下にあるのは、おおタンクトップですか。洗い物ですか?」
結構露出度の高い服を持っているんだな。家で来ているのかな、それとも外で切るのかな。外で来ていると人目を惹くなあ。この娘、プロポーションがいいのかもしれない、と海斗は想像する。
「あらららああ……」
わざとクロゼットから出したのではなく、正真正銘昨日脱ぎ捨てた服だったではないか! これはとんだ失態。レディたるもの、まずかった!
「いいえ、それは着てはいませんっ。しまい忘れたのでしょう」
「ではこちらは、どこへ」
「ああ、タンスに入れます」
「それから、こちらのパーカーや、あっパジャマは?」
海斗は触ってよいものかどうか、思いあぐねたがしっかり手に取った。花柄のフワフワしたパジャマ、手触りがよい。
「ああ、それは……こっちの引き出しへ入れます、自分でっ!」
パジャマを手に取られてしまった、これはまずい。
「そうですか、触ってしま、すいません」
「あはは……」
「まるで見事に花が咲いたようです」
麻保はパジャマをグイっと胸に抱きしめ、クロゼットを開けた。するとクロゼットの中にぎゅうぎゅうに押し込まれていた服が見えた!
服がぎゅうぎゅうに押し込まれ、その間に押し込まれていた巨大なクマが転がり落ちた!
「うをっとっ!」
いけないっ! こいつが出てくるなんてっ!
誕生日に買ってもらい、最近出番がなく服の間で息も絶え絶えになっていたぬいぐるみの熊。自分より巨大で、あまりに大きいので持て余し気味だったのだ。
かつてはソファの上で堂々と自己主張していたというのに……。
「おお、ぬいぐるみですね。可愛い」
「あ~あ……飛び出しちゃった。くまちゃん」
「落ち着いてください。一緒に片づけましょう」
クロゼットの中まで片づけることになり、一つ一つ奥からこれは今着るもの、これはもう当分出番がないものと分類して、ハンガーにかけなおす始末。だが、クロゼットの中がすっきりしたせいで、外へ出ているものが収まり、部屋に散乱している服の行き場ができ部屋の中は格段に綺麗になった。
「これで部屋の中がだいぶすっきりしました」
「そのようですね……よかったわ」
こんなことでいいのだろうか、といくら反省してもしきれないぐらい恥ずかしいし、もうこれっきり来てもらえなくなってしまうんじゃないかと暗い気持ちになる。
「元気がないようですが……」
「……いえ、私は元気ですが……こんな汚い散らかった部屋、見たことが無いでしょう?」
「そんなことはありませんよ。綺麗なほうです」
「本当ですか。なんか失望してませんか……私に」
「そんなことありませんって!」
仕事なんだから片付けるのは朝飯前だ。下手に怒らせてはまずいので、海斗はお世辞をいった。もちろん綺麗なはずがない!
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