第7話 家に帰って目にしたものは

 ハヤトは工場での仕事を終え、アパートへ戻ってきた。


「今日一日よく頑張った。疲れたな」


 とひとり呟きドアの前に立つ。


 さて、まだ美里はいるのか、どこかへ帰っていったのか、そっとカギを差し込みまわす。かちゃりと小さな音がして、ドアノブを回し玄関へ入る。


 いるかいないか、確率は五分五分といったところだろう。どうせ昨日は気まぐれでここまで着いてきたのだ。今頃は友達の家にでも戻っていることだろう。昨夜一晩の出来事を、冒険談のように友人に得意げに語っているのではないだろうか、とハヤトは苦笑いした。 


 だが、玄関に入って真っ先に目に入ったのは、美咲が昨日履いていたスニーカーだった。


「あれ、まだいたのか」


 と呆れたが、安堵の気持ちもあった。またあの娘に会えるのかと思うと、おかしくもあった。何しろいつもの日常に変化ができたし、何より気になっていた。


 短いながらもゆっくりと廊下を進む。音を立てないようにすり足で静かに歩く。部屋に電気がついていないので、ひょっとすると眠っているのかもしれない。息を殺してキッチンに差しかかる。ここで眠っているのかと想像したのだが、いなかった。ひょっとして俺の生活スペースに入って眠り込んでいるのかな、と目をそちらへ向けると、窓の方を向いて立っている美里の姿があった。


 だが、なんと下着姿だった。

 

 夕日を受けた美しいシルエットに息を呑む。


 えっ、着替え中だったのか。だが、ここで声を掛けたら大声を出されそうだ。まるでのぞき見をしているように思われる。


 ゆっくりと元来た道を後ろへ下がっていく。まるで悪さをして逃げようとしている子供のような図だが仕方がない。着替え中に入ってしまった。


 美里はビキニのパンティとブラジャー一枚で下を向いている。袋の中からごそごそと服を取り出して眺めているのだが、後ろから見るとほとんど裸に近く、窓から夕陽が差し込んでいるのでシルエットがくっきりと分かる。


 足はすらりと長く、ウェストが思いのほか細い。そのせいかヒップがふっくらして見える。背中を向けているので、バストは見えなかったが、体が揺れるたびにちらりとラインが見えた。


 トレーナーを取り出すと、さっと上半身を中へ入れる。体の線は見えなくなった。下は何を履くのだろうと見ていると、あろうことか一度着たトレーナーを脱ぎ、再度下着姿になった。次に着たのはパジャマだった。そちらは上下揃いのを着たのだが、すぐに脱いでしまった。


 ここで試着してるってことか。店で試着してこなかったのか!


「パジャマはちょうどいいけど、トレーナーは少し緩かったかなあ。やっぱり試着すればよかった」


 とつぶやいた。やっぱり試着せずに買ったのだ。どういう金銭感覚をしているんだ。サイズが合わなかったら、無駄になってしまうではないか。


 こちらを向いたら見つかってしまうかもしれないと、焦ったハヤトはキッチンとテーブルの間に体を滑り込ませた。ここはハヤトの部屋からは死角になるため、美里が寝るときに入り込んでいた場所だ。


 暗がりの中でちらりと様子をうかがうと、美里は昨日来ていた服を着ていた。元の服に落ち着いたようだ。それから明かりをつけた。


 まずいなあ、さてどのタイミングで登場したらいいのだろう。ここは俺の家なんだから堂々としていていいはずだ、とハヤトは座り込み体を丸くして、次の行動について思いあぐねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百円玉を落としたら謎の女の子がついてきた 東雲まいか @anzu-ice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ