第4話 二日目の朝が来た


「ああ、早起きして作ってくれたんだ……」

「だって、お世話になってるんだから、そのくらいはね」

「うまそうだな」


 彼女の方をちらりと見てから、洗面と着替えを済ませテーブルに座ると、向こう側にあった布団は綺麗に畳まれて隅に置かれていた。


「寝心地はどうだった?」

「まあまあ、かな。秘密基地みたいで楽しかった」

「この間に隠れてると、向こう側からは見えないもんな」

「さあ、どうぞ。食べよう」

「食べないで待ってたんだ。どうも」

「ハヤトさんの家だもん」


 美里もしっかり洗面を済ませて、昨日昼間来ていた服に着替えている。


「今日はバイトに行かなきゃならないんだけど……」

「あっ、そっか。私一人になっちゃう」

「まあ、貴重品はないから大丈夫だけどさ……ここにいるの、一日中?」

「それなら、私はちょっと出かけてくる」

「どこへ? バイトしてないんだよね」

「色々レディーにはいくところがあるの。この服一枚じゃ過ごせないでしょ」

「そうだけど……」


 買い物をするお金はあったのかな、とハヤトは疑いの目で美里を見た。すると、リュックの中でスマホの着信音が聞こえた。スマホも持っていたんじゃないか。お金がないなんてウソか。


「電話が、鳴ってる」

「誰からかな?」


 美里は素早くリュックの中からスマホを取り出し電話に出た。


「ああ、梅香! こんな朝早くに電話してきて驚かせないでよ」

「何を言ってるのよっ! 美里、今どこにいるの!」

「ああ、ごめ~~ん。知り合いの家に泊まってた。久しぶりに会った友達なんだ」


 友達に嘘をついてるぞこの娘、とハヤトは美里の顔をまじまじと見る。


「もう、心配してたんだよ。夜も眠れなかったよ!」

「ごめん。あちこち探し回っちゃった?」

「それは……しなかった。あんたのことだから夜中にそっと入ってくるだろうと思って、うとうとしてた。そしたらいつの間にか……眠っちゃって」

「そうだよね。だから今頃……」

「電話したんだ。友達の家って、女?」

「それは……」

「男なのね、どんな人?」

「まあ、良い人だと思う」

「ふ~ん、今度詳しく聞かせて、どんな人か」

「あっ、ああ、後でね。それじゃ、他に用が無かったらまたね」

「あっ、ちょっと美里ってば!」


 ハヤトは友達の所と言われて、危うく大声を出しそうになったが、自分の声が聞こえないほうがいいだろうと、息をつめた。そのうち電話が切れたので美里の顔をじ~っと見た。


「友達からでしょ。心配して電話してきたんだ、それにしちゃつれない返事」

「平気よ、そういう友達だから」

「それで、今日は帰る?」

「あの、今日も泊めてもらえないかな?」

「だって、泊まるところがあったんだし、友達も心配してるし、帰った方がよくない?」

「心配なんかしてないって、私が行方不明になったんじゃないか確かめただけ」

「それが心配っていうんだ」

「彼女本当は冷たい人なんだって」


 ハヤトは、再びじろりと美里の顔を見る。やっぱり何を考えているのかよくわからない。


「洗濯や掃除や食事の準備とかいろいろやるから、お願い、この通り!」


 美里は深々と頭を下げる。


「う~ん、どうしようかなあ」

「悪いことはしませんから」


 ハヤトの気持ちが揺らぐ。本当に困っているのかもしれない。


「まあ、もう一日いいよ」

「やった、ありがとう!」


 そういうと、美里はハヤトの顔に急接近して、頬にキスした。一瞬ドキリとして、色仕掛けかとさらに気持ちを引き締めた。



*美里にお願いされて、ハヤトの心が揺らぐ。

 次話もよろしく。

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