第3話 今日は泊まるから

 次第に夜も更けてきた。時計は刻一刻と時を刻んでゆく。


「今晩は?」

「泊めてくれるでしょ」


 と言いながら、上目遣いにハヤトを見た。


「はあ……泊まるって言ってもさ、この狭さだよ。どこで寝るの」

「どこでもいいよ、廊下でもいいし、ソファの上でもいいし」

「ソファは足を延ばせるほど大きくないし、廊下は人一人がやっと通れるほどの幅しかない」

「部屋の隅っこで寝るよ」

「もう……」


 布団を出して窓際ぴったりに一枚敷き、もう一枚は……反対側のキッチンとテーブルの間の隙間に敷いた。


「君はこっち側で寝て。多少距離はあるし、テーブルが仕切りになるから」

「わかった」


 一晩泊まってみれば、窮屈さに懲りて、明日は出て行ってくれるだろう、とハヤトは考えた。


 美里はテーブルに予備の毛布を掛けて見えないようにガードしている。


「こうすると、秘密基地みたい。座ってるとそっちから見えないよ。これで安心して着替えられるなあ」


 着替え! そうか、そういう問題もあるんだ。


 いちいち驚かせてくれる。だが、小さなバッグの中に、着替えが入っていたのか。用意周到だなと思っていると、パジャマに着替えた美咲がすっくと立ち上がりハヤトを見た。


「こっち側へは来ないでね!」

「行かないよ」

「絶対ね」

「だけど、朝はちゃんと起きろよ。俺明日バイトがあるんだから、いつまでも寝ていられたら困る」

「そんな心配いらないと思う」


 とは言ったが、窓際の布団にもぐってもなかなか寝付けない。美里はとっくに眠ってるんだろう。


「もう寝たの?」

「まだ、眠てない」

「そっか」

「眠っても、私のリュックには手を触れないでよ! レディーの持ち物なんだから」

「そんなことするわけないだろ」

「絶対だからね」

「了解」


 そういわれると、何を持っているか気になってくる。目をつぶっていてもなかなか眠くならずに時計を何度も見た。途中でトイレへ行きたくなり、キッチンの横を通ると、美里が声をかけた。


「あれ、ま~だねてなかったの?」

「寝てたけど、トイレ」


 すると、布団を頭からかぶった。バッグを抱えたまま眠っている。よほど大切なものが入っているんだろう。


 朝になると、美里はいつの間にか目が覚めて冷蔵庫を開けた。麦茶のボトルを取り出しごくりと飲む。


 ハヤトの方を見ると、布団を蹴飛ばし大の字で眠っている。


 よ~く眠ってるわ。しかも寝相悪い、とつぶやき朝食を作り始めた。まだ目が覚めないようだ。


 ハヤトは再び布団に入ったらいつの間にか、すやすや眠っていた。目覚まし時計のベルが鳴り寝ぼけ眼で止める。起き上がってテーブルの方を見ると、目玉焼きとトーストが乗っていた。


「あれ、もう起きてたんだ」

「どうぞ、召し上がれ」


 そこには二人分の朝食が行儀よく並んでいた。

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