第2話 部屋に入り自己紹介をする

「ぶっちゃけ、男の人の部屋に入って心配じゃない? 今までこういうことってよくあるの」

「男の人の家に転がり込んだこと? あるわけないじゃない」

「そうなの?」

「野暮な質問をしないで、気にしないで」

「そんなこと言ったって、若い女の子だもの、気にならないわけがない」

「そっかなあ。良いソファがあるわね、座ってもいい?」

「どうぞ」


 美里は、ワンルームの隅にぴったり寄せられた二人掛けの小さなソファの隅にちょこんと座った。


「立ち話もなんだから、隣へどうぞ」

「そうだな」


 となぜか勧められてハヤトも隣に座る。あまりにもソファが小さいので、二人の間には数センチの隙間しかない。くっつかないように、腕組みをして質問した。

 

「ひょっとして誰かに追われてるんじゃないだろうなあ。警察か、ひょっとしてやくざに。あるいは借金取り。さては、見つかっちゃまずいことをやらかしたんだろ? 夜中にドアをどんどん叩かれたり、ピストルを持った奴らに打ち破られたりしたらたまらないぞ」

「そんなわけないよっ。私がそんな女に見える」

「それは……何とも言えない。人は見かけじゃわからない」


 若くてもどんな人生経験を積んでいるのかは謎だ。


「私ね、こう見えても私結構真面目なんだよ」

「へえ、真面目ねえ。どこが?」


 とハヤトの目が点になる。


「まあ、いいから、いいから。っていうか誰かに追われてはいないよ。だからさ、そんなに難しく考えないで、ちょっとだけ置いてくれればいいから、ねっ」


 軽い感じで微笑んでいる。ハヤトの目はミニスカートから覗く膝小僧に引き付けられた。


「強引な奴だなあ」

「こんなに可愛い女の子が頼んでるんだから、あなたもまんざらじゃないでしょっ。他に行くところもなくて、困ってるんだ。だからお願い」

「ったく、しょうがない奴だなあ」


 ハヤトにとって女の子が家に押しかけてくるなんて初めての体験。しかも初めて会った女の子だ。今までにない体験に自分の気持ちが追い付いていけない。


「それじゃ、先ずは自己紹介してもらおう。どこの誰だかわからない女の子を家に入れるわけにはいかないからな」


 といってもすでに入ってきているのだが。


「ああ、そうね。私から?」

「当たり前」

「名前は美里、高校は卒業したけどまだ二十歳にはなってない」

「そう、で今は何をしてるの?」

「やっぱりそういうことを聞く?」

「差支えない範囲でいいからさ」

「卒業してからは飲食店やコンビニで働いてた。今はいろいろあって仕事はしてないんだ」


 ハヤトは人生相談をするようにこっくりとうなずく。


「家はどこなの?」

「もちろん実家はあるけど、今は友達の家やネットカフェに泊まったり、いろいろ。そちらは?」

「俺はフリーランス」

「ああ、派遣社員ってことね」

「はっきり言うなよ。今は工場で働いたり、通販商品の仕分けをしたりしてる」

「へえ、大変そう」

「忙しいときもあるし、それほどでもないときもある。時期によりけりかな」

「ふうん」


 この娘仕事はしてないんだな。無職で転がり込んできたのか。まずい、まずいよ!


「ふ~ん、それで今日は友達の所へ帰らなくていいの?」

「まあ、そのうち帰るけどね……」

「実家ってどの辺」

「出身とかを聞いてるの?」

「まあ、そういうこと」

「東京じゃなくて、その周辺。まあどこでもいいじゃない。いろいろ面倒なことがあってさ、あちこち転々としてるんだから」


ハヤトは埼玉、千葉、神奈川あたりだろうと解釈した。


「ご想像にお任せします」


 それなら埼玉県ということにしておこう、とハヤトは勝手に決めた。美里は目をぱちくりさせてハヤトにいった。


「今度はそっちの自己紹介して」

「ああ、俺はハヤト。漢字で書くと俊足の俊に人」

「へえ~~、かっこいい名前」

「そうかな。親がつけただけだ」

「趣味とか特技とかは?」

「趣味は家でのんびりすることで、特技はキーボードを打つのが早いこと」

「家でのんびりか、面白くないね」

「悪いかよ」

「そんなこと言える立場じゃないか」

「だよね」


 急に体が小さくなった。


「ところで、どうしてここへ来たの? この部屋見ての通り1Kだよ。キッチンスペースを入れて八畳ぐらいしかない」

「そうね。どうせだったらもっと広い部屋に行けばよかったかもね」

「ヤドカリみたいだな。悪いことは言わない、住み替えた方がいい。独身でもっと広くてデラックスな家に住んでいるやつもいるよ、きっと」

「いまさら変えられないし」

「高そうなスーツを着たやつにぶつかって転んでみればいいんだよ。あっ、痛いっとか言ってしがみつくんだよ。太ももをちらりと見せればいちころだ」

「その方がよかったかも……」

「まあ、そううまくいくかはわからないけどね。試しに、もう一度コンビニへ行ってやり直す?」

「めんどくさいなあ、今日はもういいや」


 と言いながら、美里は両手を頭の後ろで組みソファにふんぞり返ってしまった。完全にリラックスモードに入っている。



*変な女の子に転がり込まれたハヤト。今後どうなるのでしょうか。

 続きをお楽しみに……。

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