百円玉を落としたら謎の女の子がついてきた

東雲まいか

第1話 コンビニで百円玉を落とし女の子がついてくる

 25歳のハヤトはその日工場のバイトを終え、コンビニで夕食の弁当を物色中だった。フリーランスなので、条件のいいバイトを見つけては様々な仕事している。


「ビビンバ丼に定番の鮭弁、こっちはカルビ丼に豚丼、毎日大して変わらないなあ。商品開発頑張ってほしいな。これは卵も載ってるしボリュームもあるから、決めた! 今日の気分は……カルビ丼だな」


 ほぼ毎日コンビニ弁当を食べているので、一定のローテーションで同じものが回ってくる。迷うほどのことはないのだが、毎日必ず迷う。


「迷うよなあ、自由に選べるって。だけど、あ~あ、代り映えしないなあ、たまには豪勢に湯気の立つものが食べたいな」


 と思いながらレジで支払いをする。便利なのでクレジットカードを使っているが、支払日が恐ろしいので、収支は小まめにチェックする。必要以上のお金は使わないに越したことはない。


 財布の中からクレジットカードを出しカードを読み取り機に差し込み処理している最中に、ぽとりと小銭入れの中の百円玉が落ち転がった。


 おお貴重な百円が転がっていく。店員は気付かずのんびりと仕事をしている。百円玉を片眼で追ったが、食品棚の向こうへ消えていった。まあ後で拾えばいいや、とマイバッグにペットボトルと弁当を入れてくるりと向きを変えて棚の裏へ回ると、そこに転がっていったはずの百円玉はなかった。


 あっ、しまった。


誰かに拾われてしまったのか。くっそう、悔しい。棚の下に潜ってしまったのか、とかがみ込むが見えない。いつまでもこんな格好しているわけにもいかず、諦めて店を出た。だが、諦めきれず中をチラチラと見ると、女の子が一人総菜を買っている。ガラスケースの中に入っている何かを注文してからお金を払い、出てくる。彼女のほかに客はいなかった。


あの子が拾ったのではないだろうか、と疑いの目を向ける。


 女の子といっても十代後半といったところだろうか、短いスカートにトレーナー姿、手にはホットドッグを持っていた。


ハヤトを一瞥してから、一口かじった。


「うん、美味しい」


 そういってから、再び彼を見た。


「おじさん、何見てるの」

「いや、別に見てない」

「ああ、さっきの百円のこと。ありがとう。おかげでホットドッグにありつけた」

「ええ、やっぱり、そうか」

「まあ、いいでしょ」

「いいことじゃないよ」

「ごめん」


 やっぱりそうだったのか。店の中で騒ぎ立てるのも嫌だったから黙って出てきたら、何のことはないやっぱりこの女の子に盗られてた。


「俺が落とした百円で買ったの?」

「まあ、落ちてたから拾っただけよ」

「それって泥棒だろ、っていうか俺おじさんじゃないから」

「そう、気になったんだったら謝る」

「返してくれればいい」

「ええ~~っ、百円ぽっちかえすの? あたしお金持ってない」

「嘘だろ」

「わあ~~ん、こんなところでいい争いしてると警察が来るよ、まずいよ」

「そうだな」

「いいこと思いついた」

「何、いいことって」

「これから夕食でしょどうせ」

「どうしてわかったんだよ」

「だってお弁当買ってたから」

「単純だな、これから仕事かもしれないだろ」

「ないない、それはないね」

「もういいや、仕方ない。そのホットドッグはおごりだ」

「わあい!」

「じゃあ」

「ああ、もう帰るの。つれないね」 

「じゃあね」


 俺は女の子に別れを告げ家へ向かった。ここから歩いてすぐの所にある。アパートは二階建てで、各階五つの部屋がある。二階を上っているところでハッとした。後ろから足音が聞こえたのだ。他の四部屋に住む誰かだろうとは想像できたが、めったに出会うことが無かった。振り返って見て、びっくり仰天した。


「えっ、さっきの女の子!」

「えへっ、来ちゃった」

「来ちゃったじゃないよ、どうしたんだよ!」


 ハヤトは面倒に巻き込まれたくなかった。訳ありな女の子なんかとかかわらないほうがいい、と心のどこかで警報が鳴った。


「帰った方がいいよ」

「どうして、おじさん悪い人じゃなさそう」

「だから、おじさんじゃなくてハヤト。そんなことはいいし、確かに俺は悪い人ではないけど。ひょっとして、家出娘?」

「違うよ、私がそんなふうに見える」

「割といい服装をしてるか」


 みすぼらしい感じはしない。


「じゃ、入ってもいいよね」

「ええっ!」

「ねっ、ちょっとお。百円分お手伝いするから、ねっ」

「そ、そ、そ、そんなことって」


 二階の階段の踊り場は外階段で、通る人から丸見えだった。通る人が怪訝そうにこちらを見ている。


「ほら、いいでしょ」

「あああ、まあ、どうぞ」


 そんなことをしたら、こっちだって身の危険があるんじゃないのか。どこの誰だかもしれない人を入れて……。


だが、彼女のきゅっと結んだ口元と、それに釣り合わないほどのつぶらな瞳に見つめられて断れなくなり、ドアを開け彼女を部屋の中へ入れてしまった。




*連載を始めます!

 どうぞよろしくお願いします。

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