第40話 希未子の考え
白石さんが帰り、日だまりが残る縁側に差し出した湯飲み茶わんをお盆に載せて、長い廊下を台所へ向かう途中で
希未子さんは観る成り、矢っ張りパッとしないらしく、いい加減見飽きて、切ってもらおうと言い出した。どうしてと千鶴が聞くと、だってもうあれ以上は伸びる余地が無いからつまらないらしい。
「じゃあ誰に剪定して貰うの?」
それは鹿能さんに決めて貰うと云うから。あの人は庭師で無く花の飾り付けだから彼女の感覚に少し疑問を挟んだ。
「白石さんで無くどうして鹿能さんなの」
「あの人の資質を見極めたいから」
「資質? 鹿能さんは希未子さんの彼でしょう、まだ見分けられないんですか」
「今更変な事を聞かないでよ」
そう言われて千鶴さんは今一度彼女の瞳を見詰めると、澄んでいるでしょうと言われて思わず頷いてしまった。
「あの人にもそれがあると思う、でも幾ら澄んでいても行動を起こさないと輝やいて来ないでしょう」
「それって結婚って共同生活だとあたしは思っているけど希未子さんは違うんですかただ見ているだけ何ですか」
「そうかそれが大半の人の考え方なんだ」
「希未子さんは違うんですか」
「自分では違うとは思わない、だってどうするかは周りが謂うのでなく本人が決めなければ意味がないでしょう」
「そうかそれでさっきは白石さんから聞いたのですが常人でも思いも付かぬ事を希未子さんから云われたって」
千鶴は先程白石さんから聞いた話をする。
「あのおじいちゃんがそんな風にあたしの事を言っていたの。でもみんなそうじゃないのだから常人って云う言い方が
ーーそんな物はみんな持っているが、ただ気付かないだけだ。でもそれに気付いて目覚めても達成できる人は一握りだけど。自分こそはその一握りだと錯覚を起こして這い回る
「それってお互いが切磋琢磨して傷が化膿しない程度に
だからこの気に障る枝をどんな風に直すのか見てみたいと云って、鹿能さんを指名したようだ。
鹿能さんが来るまで、ダイニング件リビングのキッチンで、紀子さんの料理を手伝っていると大きいめの脚立を担いで鹿能がやって来た。
さっそく三人は庭に出て先程と同じ縁側に座った。先ず希未子が目の前の光景を見てあの二つの伸び過ぎて絡み合う枝の直しを指摘した。鹿能はどの様にするか希望を伺った。気に入るように直して良いか訊ねると、ブーケ以外のあなたの作品を見てみたいと希未子に言われた。
彼は二つの枝の境目に脚立を立てて登り出すと、植木ばさみを片手に格闘し始めた。特に希未子さんは縁側から見上げるだけで何も指示を出さない。これには千鶴さんもウ〜んと唸りたくなる。入り組んだ大木同士の枝葉を切り分けるのは、生け花じゃ無いんだ。矢張り時々は距離を空けて見直さないと、何処を切って良いか難しいと思うからだ。
鹿能さんは時々は脚立から降りて見直すかと思えども、とうとうそのまま脚立から降りずに、手元の枝葉を直感で切り落としている。これには大したもんだと感心せざるを得ないが、ただ切り分ければ良いと言うもんじゃあない。坊主頭に刈るので無くかっこよく形を整えないと、切り落とせば良いだけなら不器用だけど内の健司だって出来る。でもそれをどう纏めるかは人それぞれの技量で、それは謂わば千差万別で、良し悪しは希未子さんの気心次第だと千鶴さんは思う。
「希未子さんは鹿能さんの何を今更観るのです」
「千鶴さん、あたしはあなたのようにお見合いで相手を選びません」
「嘘おっしゃいお見合いを否定するあなたは祖父の紹介した人と付き合ったくせに」
「出会いはどこにでもあります。あの場で祖父と一緒で無く偶然片瀬さんお一人で通りかかればあたしは声を掛けたでしょうでもその人とどれだけ長く付き合うかはあたしの勝手です」
「でも鹿能さんよりお付き合いは長かったでしょう」
「でも心が離れるのは鹿能さんより短いですお付き合いが長かったのは祖父の顔を立てただけですから」
それを聞いて千鶴が笑うと、希未子は不機嫌になり、笑う理由を問うた。
「だってそうでしょう希未子さんの言い方が余りにもぶっきらぼう何ですもの」
「でもあたしは片瀬さんとはあなたよりも付き合いは長いですからいいも悪いも知った上で云ってるんです」
「まあ片瀬さんは第一印象はずば抜けて良いですからあたしでも食べかけの物もほったらかして追っかけたかも知れませんけれど、でもあの人の考え方は浅いんですね。モンマルトルでの似顔絵描きの一件で儚くも知って仕舞いましたけれど希未子さんはそんな事件に遭遇してませんからもう少し時間が掛かったんですね、それでも鹿能さんは未だに解らない人ね外見で見当は付けられても何を大切にされている人なのかあたしにはサッパリで不可解ですけれど希未子さんはもう少し先まで読み取れたからお付き合いされているんですね」
「千鶴さんのは当たってる、だから付き合いを続けたければこうして彼の語らないものを彼の剪定の仕方でこうして読み取るんです」
「じゃあ鹿能さんの持つ植木ばさみの
やがて剪定を終えたらしく、鹿能がその植木ばさみを閉まって脚立から降りてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます