第24話 白石論
正月休みが終わると店へ出て年始の挨拶もそこそこに、さっそく立花さんにはお年玉代わりに、昨年亡くなった会長の葬儀会場の装飾を頼まれたと報告した。直ぐに社長はでかした新年早々縁起が良いと張り切りだした。
「そうかあの娘は店が閉まってるさかい直接お前のアパートに行ったんやなあ」
「それですけれど
「そうやお前のこさえたあのブーケがあの披露宴に招待された人達からえらい受けたそやないか。これで個別に注文がどっと来てみ、どっかのホテルがほっとかへやろ、そんなホテルで挙式しゃはる人の注文取り次ぎを受けたら楽やでー」
と取らぬ狸の皮算用を始めた。これには「社長、花は季節で変わるさかい好みのデザインも変わりまっせ」と白井さんの冷静な忠告に社長は、そやなあと引けた。
「まあそやけど、あの波多野家は白井さんのお陰やが、今では鹿能にスッカリ取って代わったなあ」
それが時代の流れや、と白井さんは取り繕ってくれた。
本当はどうなんだろう。花は咲いても華やかな時代は直ぐに過ぎて仕舞う。女だって、いや、希未子さんはずっと華やかに咲き続けてくれるだろう。変幻自在に変われる彼女なら。でも片瀬は今頃は立派に仕事を
千鶴さんに作った花がたまたま受けたのは偶然に過ぎない。しかも片瀬の場合は億単位の取り引きで、俺のは数万の売り上げでしかも一回ボッキリ。この雲泥の差は誰が見たって歴然だ。あれ以上のブーケが作れ無ければ、結局はこの人はこれまでの人だと思われがっかりされる。そして片瀬に気心が偏れば鹿能はそれまでの、ただの人となる。後は彼女が記憶の片隅にでも残して、
それで心配になり、覇気のなさに気づいた白井さんが、花作りに勤しむ鹿能の元へやって来てくれた。
話は白井さんが庭師として色んな家の庭や垣根に関わってきた。その長年勤め上げた中でも波多野家に住む人達には
ーーその当時はあっしも若かったからね。二階の屋根より高い木の上で剪定もやっていましたよ。そこでふと足元を見ればまだ幼い希未子さんが
「彼女はその時は幾つでした」
「三つか四つでしたよ」
「それでどうして登ったんだろうそんな高い処まで上がったんだろう」
「いえね、いつも屋根より上のあっしを見てて羨ましがっていたそうです、そんな高いところから何が見えるのかと一度上がってみたかったそうです」
ーーこれで屋根より高い処を泳ぐ、鯉のぼりの気持ちが解ったって、それだけですけれど。でも登ってみて始めて解るんですから、この世に無駄はないと云ってました。その彼女には下に弟が居ましたが、これがからっきし意気地なしの弱虫で、どっちが男の子か解らないぐらいに、希未子さんはおてんばでしたよ。
「へ〜エそれは初耳だ。あのお嬢さんの希未子さんが」
「あの頃のお嬢さんを今も時折見掛けますが死への恐怖より生への不満が有るから無茶をなさるんですよ」
「何ですかそれは」
「この歳に成るとそれがしみじみと湧いてくるんですよ。だから本当に生きる意味を知らないで死に急ぐ若者を見るともったいない気がするねぇ」
成る程、希未子さんの場合はそんな若者に、カツを入れてやりたいと常々と考えていた。それを注入しょうとしたのが弟さんでしょう、その次に出会ったのが片瀬だと、千鶴さんはヨーロッパを彼と旅して学んだようだ。
白井さんはいつも知りたくない物は、余り追求しないもんだと云っていたが。そこへいくと希未子さんは知りたくなくても考えるらしい。それで好奇心で無口で何も語ることを知らない鹿能に目を付けたらしい。この人ならあらぬ事でも何でも吹き込めば動いてくれる。いえ、動かせる価値のある人だと気付いたようだ。
「それで白石さんは希未子さんにえらく関心を持ったそうですね」
「この家の男兄弟は部屋に籠もって机を並べて何をやってるのか解りゃあしませんよ、子供らしくなくて見ていてもイライラしてなねえ。そこへ行くと希未子さんはあっしが暇乞いする前に来たお手伝いさんの紀子さんと廊下を走り回っていたのを庭木の上から眺めていても飽きなかったもんだったなあ。この家の女性達は活気があった。中でも希未子さんは溌剌としていて頼もしくて芯が通っていた。この人はこうと思えば曲げない人だと思っているが、そうなんだろう。だからあんたは身近に付き合って居て何も心配はいらんだろう」
「それが心配の種だらけで往生してるんですよ」
「だらしのねぇ野郎だなあそんな事ではあのお嬢さんの尻に敷かれますよ」
とは云っても、白井さんはそんなお嬢さんでは無いと、百も承知で鹿能を
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