第7話 噂の人
鹿能は店に戻ると、社長から店の応接セットに座るなり、どやったと訊ねられる。
「向こうの娘さんに花の注文で食事に誘われたそうやなあ」
どうやら立花社長は事前に白井さんから情報を仕入れていたらしい。それをいつまでも公開しないのに業を煮やして問い詰められた。もちろん注文を取れれば真っ先に社長の耳に入れるがそんな話ではなかった。
今から振り返ると、どうも白井さんが帰って来るなり、社長にあの家の様子を細かく説明したらしい。それによると、白井さんが庭師を廃業したのは五年前で、それ以前はもう二十年近くあの家で庭木や敷地沿いの垣根など、一切の手入れを任されていた。それゆえにあの家の内情は
亡くなられた祖父の
そうかそうかと社長も納得顔になって来る。
「処がそこでお嬢さんは、とんでもない
その辺りから鹿能とは食い違うらしい。
「娘はどうも一筋縄ではいかなくて、とてもじゃないが家庭にすんなり収まる娘じゃないんです。それも相手次第ですけれどね、ともお父さんは仰ってました」
家族の対応に因ってはそんなに違いがあるのなら扱いにくい娘さんなのかと、立花は鹿能に訊いても、答えようがない。
「それは人を見る目が肥えている立花さんでさえコロッといかれますよ」
と白井が代弁する。
「それはどう謂うこっちゃ」
「あっしは子供の頃のあの男勝りのお嬢さんと、まだその名残が残る高校生までの希未子さんしか知りませんから。今日のおばあちゃんや総一郎さんの話には驚かされました。どうやら大学時代の先輩と片思いをしたらしいですよ。それから淑やかさが急に身に付いたらしい。矢張り恋はするもんですね、あの希未子さんがお嬢さんっぽくなるんですから」
「おい鹿能、今の白井さんの話を聞いてどう思う」
答えに窮すると、相手の
「まあそう言うことになってますけれど」
「なってますやないがなあその希未子さんってどんな人なんや白井さんから聞けば訊くほど解らん女の人やなあ」
「そんなことないですハッキリ分別される人です」
益々解らん女やさかい、白井さんと次はわしも一緒に行くと言われた。
「あの軽トラでは二人しか乗れませんけど」
「あのハイルーフのワンボック車があるやろうあれ使え」
しかしこの日ある通夜に添える飾り花の注文はなかった。おそらく極、身近な人たちだけの密葬だから供物や献花を辞退したと思われる。此処は実に難しい処だ。あの人が献花しているのに何でとなるから断ってるんだろう。この線引きは喪主にすれば頭を痛める。
「そんなもんでしょうか」
「世の中はそんなもんだ。それで成り立ってる。そやさかいいずれお前もそれが身に沁みる日が来るやろう」
「そんな世の中なんて御免被りたい」
「それじゃあ茨の道しか残ってないぞ、それでも行くか」
「荒野にしか俺の行く道は無いのか」
「鹿能、もっと世間をよく見ろ損をするのはお前や、それでも良いなら話は別だが」
人生に於いて何が損得なのか、俺の考えは世間から
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