第3話 立花園芸店
翌日は暖かな陽射しに助けられて眼を覚ました鹿能は、心地よい陽射しに吊られて予定通りアパートを出る。いつもより何故か気分よく東大路通りを下がるバスで、二十分以内に着く立花園芸店に出社した。
立花園芸店社長の
店は大通りに面して構えているので遠目からでも目立つから通りすがりの客も良く来てくれる。出社すると当然店内は客がいないのに賑わって、朝から献花作りに繁盛している。
「おはようございます、今日は朝から大量の献花作りですか」
と鹿能はタイムカードもそこそこに慌てて花作りの中に飛び込んだ。
「おっはよう、
手を休めずに社長は笑っていた。
「いや、その、まあしんどかったんです」
「まあええが、今日はある会社の会長はんが亡くなってなぁ家族だけで密葬しゃはるその飾り付けと献花を内が頼まれて朝から急に嬉しい悲鳴をあげてんにゃ」
何でも夕べ遅く入浴中に倒れて深夜には死亡したらしい。死因は脳溢血かくも膜下出血らしい。直ぐに以前その家に出入りしていた庭師の
白井さんは腰を痛めてそれに歳には勝てんと、高い木や塀には登れんようになった処を立花が面倒を見ている。もっとも白井さんはこの業界では顔の利く
「鹿能さん今日休んだらとっちめなあかんなぁって云うてたとこやぁ」
明美は余分な葉を落としながら言った。
「そやでこんな日に休んだら役立たずってどやされるで」
と
「白井はんはこの世界では古株やそれで深夜に昔世話になった家から急に話が来たんや、それがいろは商事会社の会長さんと聞いてなあそれを指名された白井はんも大したもんやで」
社長は白井の肩を福の神と思って気持ち良く叩いている。
「わしはあんたがそこそこ名の通った庭師やと解ったがあの会社の利根さんとは日頃から懇意にしててなぁ、それが日付が変わる頃に白井さんを知らんかと言う電話をくれたんやそれがきちっとした葬儀は日を改めてするさかい取り敢えず密葬して送ってあげなあかんとなって会長はんの野辺送りの花飾りを白井はんに任せたいと園芸協会の事務方の利根さんからわしは連絡を受けて直ぐ夜中に白井はんを呼び出したちゅうわけや」
頷きながら白井は手を休めずに聞いている。社長と白井の会話を鹿能は聞き流していたが、その商事会社の会長の死と今日の仕事の忙しさがどう繋がってるのか妙に気になった。
「白井さん、いろは商事ってどんな会社なん?」
「今時の若い者は知らんやろうなあ商事会社云うたら大量の品もんを扱う仕事やさかいわいら庶民には馴染みがないわなぁ」
「鹿能、喋るのはええけど献花作りの手を止めるなよ」
社長は喋りながらも寸分狂わず丁度良い段差に花を揃えている。
高すぎず低すぎずしかもメーンの花を引き立つ様に脇に地味な花を無意識に近い状態で束ねていた。何も考えてない様でも社長の手は自然に動く、これには鹿能も脱帽した。
「鹿能、お前もう花作りはええさかい白井はんと一緒に行って来い三山と
「そやけどこっちにも人手いるのんちゃうでしょうか」
「取り敢えず今朝の注文はここまでやが、会長の悲報でこの先増えると思うが鹿能、お前は今日は搬入を手伝え」
社長にそう云われて鹿能は店を出た。こう言う時は配送で慣らした鹿能は重宝される。
飾り花を積み終わった軽トラックには、鹿能と白井が乗り込んで店を出た。軽トラのハンドルを握る鹿能は、そんな会社の会長がなぜ人知れず密葬で送ってあげるのか、よくよく聞くと葬儀社で葬式を公に行うのを望んでいない事も解った。
「白井さん、そのいろは商事って云う会社の会長は身内だけの葬式に拘るんですか、普通なら直ぐに大寺院を借り切って社葬にしゃはるのじゃないんですか?」
「お前は会長の人となりを知らんさかいや」
「そんな古い伝記やニュースになってない人なんて知る訳ないでしょう」
「今の若いもんは表に出へん業界なんて知ろうとせえへんわなぁ。そんなことでどないして起業家になれるんや、お前以外もそうやが今日が面白かったらええっちゅう連中ばっかりやさかい立花はん嘆いたはるでぇー」
「社長いつもバカッ話だけしか喋らへんけど」
「立花はんはあれでいて若い頃は生け花の新たな流派を挙げようとした事もあったんやで」
そう云えば社長の花を生かす造形にはセンスがあった。
「そしたら何で弟子を取って流派の名を挙げはらへんかったんやろ」
「さあそれは本人に訊かなあ判らんが実のない名取りよりこっちの方が性におおてるやろう」
社長の性格からしたらそれは理に
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