傷跡をひらく事がつらい
仲仁へび(旧:離久)
第1話
高校に入学して同じクラスで見かけた。
最初に君を見た時、綺麗な人だなと思った。
繊細そうで、すぐ壊れそうで。儚く見えて、だから綺麗。
思えばその時、一目ぼれしてしまったのかもしれない。
だから、ずっと君を見ていた。
君が気になっていた。
その動作一つ一つを、目で追わずにはいられなかった。
だからこそ、その予兆に気が付いたのかもしれない。
君が小さく「さようなら」とこぼし、涙を見せた一瞬を。
何があったのか、正確には分からない。
校舎裏から走り去る君を見て、動揺した。
でも、ずっと見ていたから予測は立てられる。
僕は、彼女を追いかけていった。
彼女と向き合う事は、とてもつらかった。
ふさがりかけた傷口をひらいていくような行為だったから。
でも、それでも向き合うべきだと思った。
「俺も君と同じように――られていたんだ」
追い詰められた少女の前に立ちふさがって、どこへも行かせないようにしながら。
手の届かない場所に行きそうな、少女を止めるために。
「だから?」
「気持ちが少しだけわかるんだ。どうか立ち止まってほしい」
同じ境遇なんだ、と語りかける。
この想いが伝わるか分からない。
ちっぽけな人間にできる事は限られていて、僕が幸いにもあの凄惨だった――から立ち直ったと言っても、彼女の全部を救えるほどになったとはいえない。
けれど、見過ごして何もしない事だけはしたくない。
だから「お節介だよ」と言われようと「余計な事しないで」なんて言われようと。
君の前から退いたりは出来ないんだ。
――から逃げ出して少しずつ癒えたこの傷後が、ふたたびかさぶたが剥がれて血を流している。
それでも、傷跡をさらすのをやめたりはしない。
「これから言う話を少しでもいいから聞いてほしいんだ。この世界に力になってくれる人はいるって事を。だって君の前に立ちはだかれる僕がその証拠なんだから!」
痛い。
苦しい。
辛い。
あの――を思い出すだけで、こんなにも心が悲鳴をあげている。
でも、どんなに辛くても。
それが君の命を助けるためだから。
この傷口を開くよ。
君は君の物語を終わらせたくないはずだ。
だって、この傷跡をひらくきっかけの場所で、君は泣いていたんだから。
傷跡をひらく事がつらい 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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