過保護お姉さんの戦い ~vs.瑠璃篇 13~

 んくっ、と口の中のクッキーを呑み下すと、ヒロ姉はコーヒーを一口すすってから再びボクに射るような視線を向ける。

「それにハルくん、なんか最後のほうヒソヒソ話してたみたいだけど、あれはなんなの? おねえちゃんにも言えないような内緒話?」

 さすがヒロ姉、観察眼まで鋭い。

 あー、と口を開きかけたところに、ヒロ姉のかじったクッキーの残り半分がカポッと突っ込まれた。なんとも手荒な優しさがあったもんだ。

 噛み締めると、サクサクとした歯触りとともに豊かな甘い香りが口の中に広がる。こりゃたしかに美味い。

「別にたいしたことじゃないよ。ヒロ姉に話したってボクは困らないけど、矢作の妹の話だから……」

「ふーん?」

 唇を尖らせたヒロ姉が不満げな相づちを打つ。そして気持ちこちらへとにじり寄ると、ボクの耳もとで囁くように言った。

「ねえハルくん、知ってる?」

「な、なにを……?」

 耳にかかるヒロ姉の吐息で、背筋がゾクゾクした。

「秘密って、あっという間に共有した二人の仲を縮めるのよ?」

「それ、ケースバイケースだと思うんだけどなあ……」

 そう。秘密というものはその内容によって、共有者の仲を縮めるどころか逆に破綻をもたらすことだってあるのだ。川原で拾ったエロ本が、実は仲のよい友達が捨てたものだと気づいちゃった時とか。その二人「他のやつには秘密な」とか約束はするものの、きっと互いに気まずくなって疎遠そえんになるんだ。三年一組の秀くん、元気かなあ……。

「それから、女の子の頭をコツンてやるのは『まったくしょうがないやつだな。オレはこんなに愛するお前のことを心配してるのに』っていうサインなんだからね!」

「それ、具体的過ぎるにもほどがあるよね!?」

 それこそケースバイケースだ。もしヒロ姉の言う通りなら「女の子へのサイン一覧表」を誰か早急に作ってくれないと困る。そうじゃないとボク、自分でも気づかないうちにとんでもないことやらかしかねないんだけど……。

「それに……」

 どうしたはずみか、ヒロ姉が突然うつむいてゴニョゴニョと口ごもる。

「ハルくんみたいなタイプの男の子には、年上の女の人が合ってると思うの……」

「え? ヒロ姉、どうしたの急に」

「だから! さっきの女の子はハルくんの彼女にふさわしくないと思うの!!!」

「話が飛躍しすぎてるよ!?」

 またヒロ姉の悪いクセが始まった。

 これじゃあそのうち、ボクと会話を交わした女の子全部をボクの彼女候補として疑いはじめかねない。

「飛躍してないもん! ハルくん、そんな呑気のんきなことばっかり言ってると知らないからね? そのうち周りが女の子だらけになって窒息死しちゃうんだから!」

 えー。なにその幸せな死に方。

 どうせ人間いつかは死ぬんだ。ならば男たるもの、人生の終焉はぜひそんなふうに迎えてみたいもんだ。

「それに昔から言うじゃない。『年上の従姉いとこかね草鞋わらじを履いてでも探せ』って」

「それ、探す必要ないじゃない……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る