過保護お姉さんの戦い ~vs.瑠璃篇 10~

「で、C組のやつがいったい何の用だ? そもそもこのE組はイケメンの立ち入りは禁止だぞ」

 ちょっと鵜川、なに言ってんの? それじゃまるで、E組にはイケメンが一人もいないみたいじゃないか。

 ……あれ? ヤバい。本当にいない。

「あははは……、そうなんだ。でも鵜川くんがこの場にいるわけだし、ボクがいたっておかしくないよね?」

 イケメン歴十五年はダテではないらしい。

 そんな扱いは慣れっことばかりに、矢作が淀みなく鵜川のやっかみを受け流した。

 言われた鵜川のほうは、うん? と考え込む。

 考える必要、まったくないけどな。それ、間違いなくお世辞か皮肉のどっちかだ。

「なるほどな。それならまあ、ギリギリ許してやらんこともない」

 鵜川、チョロい。チョロ過ぎる。

 自分が矢作よりイケメンかもしれないなんて、ボクなら百万回生まれ変わったとしても夢想すらできない。

「まあ、三前くんに昨日のお礼くらいは言っておかなきゃと思ってさ。ちょっと寄っただけなんだ」

 そう言ってパシッと鵜川の肩を叩くと、矢作はボクへと向き直った。

「本当、昨日はありがとうな。瑠璃もすごく楽しそうに三前くんのこと話してたよ」

 それはそれは。楽しんで頂けたならこちらとしても何より。

 ヒマでブサイクなお兄さんと自転車の二人乗りしたってのが、そんなに楽しい出来事とも思えないけどね。

 矢作妹が楽しかったのはきっと……。

「……そういえばお前の妹、昨日なんか持って帰らなかった?」

 記憶の連鎖で、ふと大事なことに思い至った。

「ああ。のことか……」

 矢作がフッと苦笑いを漏らす。どうやら事情はお察しのようだ。

「大丈夫。瑠璃と母さんは同じ部屋だから、あれはボクの部屋で預かってる。母さんにバレたら大騒ぎだからね」

 ふうむ。矢作妹め、首尾よく兄を仲間に引き入れたか。さすが、そつがない。

 家庭内に共犯者がいれば、犯行の隠蔽いんぺいは容易だからな。

「まあ、これからもあいつと仲良くしてやってよ。お隣どうしだし」

「どうかな。お前の妹のほうにそのつもりがあるとは思えないんだけど」

 それを聞いて可笑おかしそうに笑うと、矢作はポケットからスマホを取り出してラインのQRコードを起動させた。

「そんなことないと思うけどな。あいつ、素直じゃないから誤解されやすいかもだけど。……ああ。それから、ついでにボクのこともよろしく」




 夕食後のリビングには、まだクリームシチューの甘い香りが漂っていた。市販のルーのはずなのに、ヒロ姉の手にかかるとたちまち味のレベルが一、ニランクは跳ね上がる。

 いったいどんな技術が駆使されているんだろうか。……まさか、魔法か?

 キッチンでヒロ姉が食器を洗う音をバックに、ボクはアスモデウスに紺碧こんぺきの宝珠をドロップさせるべく、スマホを激しくポチポチしていた。

 ……まずい。攻撃魔法のスキルレベルが足りない。攻略に「レベル40あればなんとかいけます」とか書き込んだやつ、ボクに謝れ。

 くそう、ヒロ姉の調理魔法くらいのレベルがあれば楽勝だろうに……。

 アスモデウスの放った爆炎によりHPゲージがゼロになったところで、インターホンのチャイムが鳴った。

「あ、ハルくーん。おねえちゃん、今、手が離せないの。出てもらっていい?」

 ヒロ姉がキッチンからひょこっと顔だけを出す。

「ほーい」

 ボクはスマホをソファーにポイと放ると、壁のインターホンに歩み寄った。

 応答ボタンを押すと、来訪者の頭頂部と、結わえられた髪の一部だけを映したカメラ画像が表示される。

 なんかこの頭、見覚えがあるような。

 ……イヤな予感がする。

「はい、どちら様?」

 警戒を込めて、そうインターホンのマイクに呼びかけた。

 すると来訪者が背伸びをしたらしく、ニョコッ、と目と鼻までかフレームに入ってくる。

 ああ、やっぱり。

 この目もと、今日の昼休みにも見た記憶がある。この兄妹きょうだい、目鼻立ちがソックリだ。

「あ、あのう……。隣の矢作……ですけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る