過保護お姉さんの戦い ~vs.瑠璃篇 6~

「にゃんたららったー ねこがなくー

 うーらのやーまで ねこがなくー

 きのうは にひきー

 きょーうは よんひき

 あしたはきっと はっぴきなくー」


 こわ……。

 なんなのその歌、怖い。

 無事アニキから鍵を拝借した矢作妹を連れてアパートへと戻る道中、自転車の荷台からうなじの毛が逆立つような歌が聞こえてきた。

 第二グラウンドを経由したため、来た時とは別の川沿いの道を走っているのだが、牧歌的な風景と聞こえてくる歌のギャップがひどい。

「なあ。そのブキミな歌、なんなの? 保健所に電話したくなるんだけど」

「はあ!? この歌のどこが不気味なのよ。ニャンコかわいいじゃん!」

 抗議の言葉とともに、背中をドンとどつかれた。

「いやいや、それ猫じゃないだろ。一日ごとに倍になってくとか、猫みたいな鳴き声した別の何かだぞ。地球外生命体とかさ。……あれ? じゃあ保健所よりNASAに電話したほうがいいのか?」

「はあっ、もういいよ。お兄さんとはホント感性が合わないよね」

 なんか、盛大にため息をつかれた。

 まあ、コイツと感性が合っちゃったりしたら、それはそれでちょっとイヤだし、特になんら痛痒つうようは感じないんだけど。

 その感性の違いをめぐる応酬を潮にヘンな歌も終了したため、そこからは静かなサイクリングとなった。

 ボクら二人を乗せた自転車が、川と並行して走る道を傾いた午後の太陽の光に照らされながらゆっくり進む。

 ていうか、余計なもん載せてるせいで後ろのタイヤの空気絶対抜けてるよな……。

「あ……」

 後ろの余計なもんが何かに気づいたらしく、ボクのジャケットをクイクイと引っ張った。

「お兄さん、あれなあに?」

 なにか珍しいもんでもあるのかと辺りを見回すが、特にこれといったものも見当たらない。

「なんのことだ?」

「あれだよ、あれ」

 振り返ると、矢作妹が左手に見える川岸のほうを指さしていた。

 自転車を止め、その指し示す方向に目をやる。

「もしかして、あれのことか?」

 そこにあったのは、川岸のあしやススキの茂みを切り拓いて作られた、三十×四十メートルほどの空き地のような場所だった。

「いや、なにって言われてもな……。土日とか、あそこで犬を遊ばせてる人とかよくいるけど」

「へえ〜」

 ボクの説明が終わらないうちから、矢作妹が荷台からピョンと飛び降りる。そして川へと下る土手の斜面にできた獣道のようなルートを、空き地へと向かって走り出していた。

「あ、おい!」

 まったくもう。小学生かオマエは。

 こっちは早く帰って「さえないおっさんが転生したら最下級の魔物だったので、もう一度転生して異世界でスパリゾートを始めたら後進に企業買収され、そこがブラック企業だったから労働争議を起こしたら英雄扱いされたのが一転、風評被害で企業自体が倒産してやっぱりさえない流浪るろうの身になったがゆえにいま一度転生して人生やり直そうと思ったんだがそんな都合のいい話があるわけなく結局夢オチだった」の録画した三話と四話を見たいってのに。

 ……てか、タイトル超なげえ。あと、ほぼタイトルだけでネタバレしてる。これ、もう見る必要ないんじゃね?

 一瞬、このままあの厄介者を放置して帰ろうかという考えが頭をよぎったが、後で家に警官が訪ねてくるなんてことになっても面倒だと思い直す。

 しかたなく自転車を道の端に寄せてスタンドを立てると、ノロノロとやっかいなお荷物の後を追った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る