過保護お姉さんの戦い ~vs.瑠璃篇 5~

「で、どれ。どれがおまえのアニキ?」

「だからあれだってば。あのビブス着けてるほうのチームにいるイケメン」

「あのさ、『イケメン』とかいう主観的要素を個人特定に使うなよ。分からないから」

「ぜんぜん主観的じゃないよ。さっきのお姉さんもイケメンだって言ってたじゃん。私のお兄ちゃんがイケメンなのは、もはや客観的かつ普遍的な事実なんだよ。お兄さん、目え悪いんじゃないの?」

「まあ、あまりいいほうじゃないけどな。でもおまえの性格と口よりはずっとマシだぞ?」

「なにそれ!? 超失礼! あと『おまえ』じゃなくて瑠璃るりだってば!」

「分かった。じゃあ次からそう呼ぶ」

「待った! それなしで!!!」

 やっとたどり着いた第二グラウンドの門で、そんなアホなやり取りが展開していた。

 ようやくサッカー部の練習している場所をつき止めたと思ったら、今度はコイツのアニキを特定するのでひと悶着もんちゃくだ。

 アニキのいるとこまでは連れてきたんだし、もうこの生意気なコムスメ置き去りにしてトンズラしたろうか。

「あ、あの人だよお兄さん。今、右サイドに走った!」

 いいや、もう。

 この調子じゃ、練習が終わるまでらちが明かなそうだ。

 ボクは練習を見守るマネージャーらしき女子生徒たちの中から、なるべく優しそうな一人を選んで歩み寄った。

「あ、あのう……」

「は? なにあんた」

 恐る恐る声をかけたら、とてつもなく迷惑そうな目つきでギロリと睨まれた。清楚でおとなしそうな見た目を信用したのに、まるで場末の飲み屋のオネーチャンみたいなハスッパな反応だ。

 もう、女なんて信じないんだから……。

「なんか用? 今、練習中なんだけど」

 今にも取って食われそうな雰囲気だった。縄張りに侵入されたライオンですかって、あなた。

「いやあの、実は……」

 女性不信どうこう以前に目前の危機を回避せねばと、慌てて彼女に事情を説明する。

「……はあ。ちょっと待ってて」

 意外や意外。話を聞いたマネージャーさんは面倒くさそうな顔をしながらも、ボクをその場に残してピッチへと近づいて行った。

 ……あれ、実はやっぱり優しい人?

 怖そうとか思ってゴメンなさい。ライオンとか思ってゴメンなさい。雌はライオンじゃなくてライオネスでしたゴメンなさい。

 彼女はボールがラインを割ったタイミングで一人の男子生徒に声をかけ、手招きでこちらに呼び寄せた。

「なんすか、先輩」

 手招きに応じて、マネージャーさんのもとに小走りで駆け寄ってきたそいつはたしかにイケメンだった。一歩地を蹴るたび、なんか画像をデコるキラキラしたあれみたいなのが飛び散るような錯覚を覚えるくらいイケメンだった。

「なんか、矢作に用だって。アイツ」

 マネージャーさんがボクのほうにアゴをしゃくって見せると、イケメン君がこちらを不思議そうな顔で振り返る。

 ボクはこれ以上同じ説明を繰り返さなくてすむよう、バルサのロンド輪舞張りのワンタッチパスで隣の矢作妹を指差した。

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