過保護お姉さんの戦い ~vs.瑠璃篇 2~

「いや、ボク隆ヶ崎って名前じゃないけど」

 コンニャロウ。

 人の名前間違えたうえに呼び捨てにすんな。鵜川か、オマエは。

 しかもこの子、どう見てもボクより年下なんですけど……。

「違う違う。その制服、隆ヶ崎高校のでしょ?」

 ボクを指さす手をブンブンと上下に振りながら女の子がまくし立てた。

 ああ、そういうことか。

 それは分かったけど、なんで制服じゃなくてボクの顔を指さしてんの、キミ。この顔は制服の一部じゃないのよ? 仮面じゃないのよ? 飾りじゃないのよ、涙は。

「そうだけど、それが?」

「やっぱり! お兄ちゃんと同じ制服だから分かった」

「お兄ちゃん?」

 どうやらこの子、ボクと同じ隆ヶ崎高校に通うお兄さんがいるらしい。

 え、お隣さんが同じ学校の人? はじめて知った。顔合わせたことないし。

「ねえ、お兄さん歩いて通ってんの!?」

 女の子がたたみかけるような勢いでそう問いかけてきた。

 女の子に「お兄さん」と呼ばれるなんて初めての経験をしたせいで、ちょっとドギマギする。

「いや、チャリ通だけど……」

「よし!」

 なにが「よし!」なのか分からないが、女の子はボクを指さしていた手をぐっと握りしめて派手なガッツポーズをとった。

「じゃあ乗せてって!」

「え? 乗せてくって、どこへ?」

「だから、自転車で私を隆ヶ崎高校に連れてって!」

 なにが「だから」なのかもよく分からない。さっきからなんなの、この子。

 スキーになら連れてってやる、と言いたいところだが、残念ながらスキーなど生まれてこのかたやったことはない。

「なんでボクが?」

 この状況では当然としか思えない疑問に、女の子が実に不満そうな顔をする。

「朝、家に鍵忘れちゃったの。入れないの!」

 うん。それはだいたい想像ついてた。

 だけど、ボクがキミを学校まで連れてかなきゃならない理由の説明にぜんぜんなってないんだよね、それ。

「少し待ってりゃ、そのうち誰か家の人が帰ってくるんじゃないの?」

「帰ってこないの! お母さん、仕事で帰り遅いんだもん! お兄ちゃんは部活だもん! だからお兄ちゃんに鍵借りに行かないと、夕方まで家に入れないんだもん!」

 実に納得のいく話だったが、直後にはなはだ納得いかない一言が追加された。

「お兄さんはどうせ帰宅部なんでしょ。こんな時間に帰ってきてるし。どうせヒマなんでしょ!?」

 これにはさすがにちょっとカチンときた。たった今しがた、ボクの目前で日本全国の帰宅部中高生を敵に回す発言がなされたぞ。

「ちょっと待て。帰宅部が全員ヒマなわけじゃないんだぞ。こう見えてけっこう忙しいんだぞ?」

 ムキになって言い募るボクに、ポニテの女子中学生はあからさまにウソをつけという目を向けてくる。

「じゃあ、お兄さんのこの後の予定は?」

 実に生意気そのもの、と言うべき口調だった。

 ここはガツンと一発かましてやらねばなるまい。

「例えば、だ。ヒロ姉が留守の間に、録り溜めたアニメに目を通したり……」

「……」

「ソシャゲでクエストを周回してアイテムを集めたり、デイリーミッションをこなしたり……」

「…………」

「ラノベやコミックの新刊情報をチェックしたりとか色々あるんだ!」

「うわ……」

 なにゆえか、眉をひそめて可哀想なものを見るような目つきをされた。

「……めっちゃ、ヒマそう」


 ……そうですね。…………ヒマですね。

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