~閑話休題~ 過保護お姉さんのいないとある風景
「ねえ三前。あんた、何部に入るか決めたの?」
「え? いやまだ。ていうか、部活入らないつもりなんだけど……」
「はあ!? せっかくの高校生活なんだから、なんかやれって言ったでしょ」
「あれって命令だったの!?」
とある日の放課後、教室を出ようと肩にバッグをかけた直後に宇津科さんに呼び止められた。
あれから数日、宇津科さん、本当にボクに対して遠慮がなくなりました。
「とにかく、もう体験入部の期間もあんまり残ってないんだから、なんか考えておきなさいよね!」
体験入部か……。確かにありましたよね、そんなシステム。
だけどあれって、企業の試用期間みたいなもんじゃないの? ちゃんとサボらないで部活出てくるかとか、先輩に逆らわないかとかを見極めるための期間だと思ってた。
「宇津科さんは? バレー部はやっぱりやめたの?」
ふと部活紹介の日のやり取りを思い出して
「わ、私のことはどうでもいいでしょ……?」
あ、目を逸らした。
もにょもにょと口ごもるところを見ても、どうやらツッコミ厳禁な状況らしい。
「わ、私、部活行くから」
そう言ってカバンをひっつかむと、宇津科さんはドアに向かってスタスタと歩いていく。ところが突然ピタリと立ち止まると、クルリとこちらに振り返って目を細めた。
「ついてこないでよ?」
ナチュラルにストーカー疑惑をかけられた。
宇津科さんが何部に入ったのか興味がないわけではないが、跡をつけてまで知ろうとは思わない。
ボクが慌ててコクコクと頷くのを見届けると、宇津科さんは早足に教室から去って行った。
「なに。なんか宇津科に嫌われるようなコトやらかしちゃった?」
後ろの席の
いや、見事だ。
実に見事な丸刈りだ。
あまりに見事過ぎて、思わず手を合わせそうになる。
「いや、別に」
そうそっけなく返してカバンを肩にかけ直すが、ふと気になって
「鵜川は部活は? 野球部?」
「いや、帰宅部だけど?」
なんなの、そのビジュアル詐欺。やっぱり実家が寺とかなのか?
「あっそう……。じゃあ」
これ以上の会話の広がりも期待できなさそうなので、早々に退散することにする。
「なんだよ、冷てえな。帰りどっか寄っていかねえ?」
「いや。寄るとこあるから」
背中にかけられた声を言い訳で振り切る。実のところ、どこにも寄りゃしないんだけど。
コイツと一緒にいても、ヒロ姉のことを根掘り葉掘り
扉へ向かう途中、今度は三徹したような眠そうな目と視線が合った。
……うわ、梶田だ。
この前のラインのやり取りを根に持っているのか、ものっそい不機嫌そうな顔でこちらを
「おい。この前のアレはどういうことだ?」
「アレってなんのこと?」
コイツの不満は分かりきっているが、取り敢えずとぼけてみた。
……ていうか、なにを当たり前みたいにヒロ姉の入浴画像とか要求してんの、お前。
「ふざけるな。しらばっくれる気か! キサマが先日送ってきた、あの白黒の巨大な生物の画像のことだ!!!」
「…………ハルコ(雌牛)が、どうかしたか?」
静かな(偽りの)怒りを込めて目を細めるボクに、梶田が明らかにたじろぐ。
「ど、どうかしたかって……、お前」
「あのハルコ(めうし)はな、ボクの小さなころからの友達なんだ(嘘)」
「な、なんだと……?」
「子供の時、喘息で一人も友達がいなかったボクの、たった一つの心の拠り所だったんだ。……去年、天国に旅立ったがな(うそ)」
「そ、そんな……」
「そんなボクのかけがえのないハルコ(メウシ)の思い出を分けてやったというのに(ウソ)、貴様は不満だというのか……」
「え!? いや、でも別にあのタイミングで……」
何か言いかけた梶田だったが、ボクの(笑いを
「い、いや。…………す、すまなかった」
「いいんだ……。分かってさえくれれば」
……よかった。コイツがバカで。
うなだれる梶田をその場に残し、今度こそボクは教室を後にした。
それにしてもなんだよ、このボクを取り巻く環境は。
まるで、伏線ばっかり張りたがるくせにちっとも回収しないシロウトが書いたラノベみたいじゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます