過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 final~

 まず最初に驚いた。

 従姉いとことクラスメイトの女の子。このまったくと言っていいほどカテゴリーの違う二人のどちらが好きかと尋ねられたことに。

 次に、ちょっとノスタルジックな気持ちになった。

 ヒロ姉が自分のことを「おねえちゃん」なんて言うのを最後に聞いたのは、いったいいつが最後だったろう。記憶を辿たどっても、浮かぶ光景がセピア色に色褪せかけたころまで遡らなければならないほど昔だったような気がする。

 そして最後に、例のごとくドッと疲れた。

「ヒロ姉、そもそも選択肢の設定がおかしいよ。なんでその二人が並列で扱われんの?」

 そりゃあ、ヒロ姉も宇津科さんも、二人とも好きだ。でもそれぞれの「好き」は違う「好き」なんだよな。

 ちょっとヤンデレのはあるかもだけど、物心ついた時からボクを可愛がってくれたヒロ姉を嫌いになんてなれるわけがない。

 一方の宇津科さんは、ボクにきちんと向かい合ってくれた初めての女の子だ。最初は上位ヒエラルキーへの憧れ混じりの気持ちだったけど、あのがむしゃらさに触れてからは、どうしても一人の女の子として意識してしまうのだ。

 けれど、どちらの「好き」も恋とは違う。

 今はまだ、なのか、これから先もずっとなのかは分からないけれど。

「そうよね。おねえちゃんと宇津科さんを比べるなんて、最初からおかしいわよね」

 ヒロ姉が世界中の闇を照らさんばかりの笑顔で声を弾ませた。

「でしょ? だいたい宇津科さんは……」

 ヒロ姉、やっと冷静になってくれたかと、ちょっとホッとしながら口を開きかける。

 が、次の瞬間……。

「宇津科さんなんて、ハルくんのおねしょしたパジャマを洗ったこともないものね?」

 ……ははは、やだなあヒロ姉。そんな遥か昔の、小さなころの話を掘り返さないでよ、もう。

「宇津科さん、ハルくんのえっちなDVDの隠し場所すら知らないものね?」

「待ってよ!!! 知らないのが普通だよ!? それ、ヒロ姉は知ってるみたいじゃない!!!」

「…………知ってるけど?」

「いやあぁぁぁ!!!!!」

 なんで? どうして!? あんな場所、CIAにすら見つからないと思ってたのにぃ!!!

「いくら宇津科さんがハルくんのことを好きでも、積み重ねた愛の歴史と、ハルくんへの理解はおねえちゃんにはかなわないわよね……」

 どうやらヒロ姉、ボクの言った言葉の意味を盛大に取り違えていらっしゃるらしい。そのポジティブさが、ヒロ姉のヒロ姉たる所以ゆえんと言えなくもないけれど。

 それにしてもボクの高校生活、始まってまだ数日しか経っていないのにこれでは、何とも先が思いやられる……。




 その日の夜。

 ぺんぺこり〜ん、とスマホがまたマヌケな通知音を発した。

 なんとなく予感はしていたけど、やっぱり宇津科さんからのラインメッセージだ。


  おーい 21:12


      どうしたの? 21:13


  ひ 21:13


  ま 21:14


      ボクもひま 21:15


 昨日と同じで、既読はすぐについたが返信がなかなか来ない。

 寝落ちしたかな? まだ九時すぎなのに、宇津科さんってば健康的。


  あんたに…… 21:21


 ありゃ、起きてた。


      ボクに? なに? 21:21


  い 21:22


 あ、これまた例の一文字区切りだ……。


  っ 21:22


  て 21:23


  お 21:23


  く 21:23


  こ 21:23


  と 21:24


  が 21:24


  あ 21:24


  る 21:24


 いやあぁぁぁぁ! ホントに怖いってば!!!

 ヒロ姉といい宇津科さんといい、そのうちストレスでハゲるよ、ボク。

 恐怖のあまりベッドでのたうっていたら、トドメのメッセージがピコリと表示された。


  私、もうあんたの前じゃ

  ゼッタイ遠慮とかしない

  から!!!       21:26


  か 21:26


  く 21:27


  ご 21:27


  し 21:27


  と 21:27


  け 21:28

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