過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 20~

 カラッ、カラッと、宇津科さんがアイスキューブを二つ自分のグラスに追加する。

「……ん」

 そのままドリンクサーバーの前に移動するのかと思いきや、横で順番を待っていたボクに手を差し出した。どうやらボクのグラスにも氷を入れてくれるつもりらしい。

「あ、ありがと」

 ボクがグラスを差し出すと、宇津科さんは黙ってそれを受け取り、トングでポポイと氷を放り込んだ。

「ていうか三前、さっき私が言ったこと、聞いてた?」

 質問が氷の入ったグラスと共に差し出された。

「あんたからどう見えるか知らないけど、私、本当に何もできないんだよ」

 沈んだ口調でそう言いながら、宇津科さんがドリンクサーバーの前に立つ。グラスを注ぎ口の下に置くと、ほうっと溜め息をつきながらコーラのスイッチを押した。

 陰ったその横顔は、いつもの明るくて活発な宇津科さんのイメージとはまったく別物だ。

「宇津科さんに何もできないなんてこと、ないと思うけどな」

 その横顔に向けて、というよりは、まるで独り言のようにそんな言葉が漏れた。

「少なくともボクは、宇津科さんのおかげで高校生活が楽しみになったけど……」

 ボクの言葉に反応した宇津科さんが、目を丸くしてボクを凝視する。

 無意識に口をついた自分の言葉と、それに対する宇津科さんの反応が照れくさくて、思わずついと視線を逸らした。

 その逸らした視線の先では、ちょっと雄壮でコミカルな光景が展開中だった。

「宇津科さん。こぼれてる、こぼれてる……」

 サーバーの注ぎ口で、グラスの縁を乗り越えた茶色の液体がブクブクと泡立ちながらミニナイアガラの滝を形作っていた。

「え……? あ、きゃあ!」

 焦ってスイッチから手を話す宇津科さん。その目がギロッとボクをすがめた。

「もう、あんたがさっきからヘンなことばっかり言うから……!」

「え? ヘンなことじゃあないと思うけど」

 ヘンではないけど、ちょっと恥ずかしいことはまあ言ったかもしれないですね。ごめんなさい。

 慌てて駆け寄ってきた店員さんから受け取ったナプキンを宇津科さんに差し出すと、怒ったような顔で引ったくられた。

「ヘンだってば! あんたって、言うことも従姉いとこも顔も、全部ヘン!!!」

 なんか、色々付け加えられた。

「う、宇津科さん。ボク、な、泣いてもいいですか……?」

「もう、泣いちゃえ。ワンワン泣いてしまえ!」

 ナプキンでグラスを拭う宇津科さんが悲しい許可をくれる。

 ションボリうなだれつつ、お言葉に甘えちゃおうかなーとか悩みながらジンジャーエールをグラスに注ぐボク。宇津科さんは眉間にシワを寄せながらも、そんなボクをじっと待ってくれていた。

「大体、私とあんたの高校生活とどんな関係があんのよ?」

 席に着くなり、腰がソファーに落ち着く間もなくそう尋ねられる。

 今気づいちゃったけど、この話ってどうしても自分の過去のトラウマを掘り返す流れにならざるをえないなあ。ヤだなあ。

 でも、自分から振っちゃった流れなんだよなあ……。

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