過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 19~
「もう、なんなの!? 一体なんなのよ!?」
テーブル席の向かいで宇津科さんが頭から湯気を出していらっしゃった。
ここは駅のロータリー前に建つビルの二階にあるファミレス。
駅に着き、そのまま構内に直行するのかと思われた宇津科さんが、無言のままボクの袖をつかんでここまで連行してきたのだ。
さっきヒロ姉にやり込められた怒りがおさまらないのか、宇津科さんがどっちゅるるるーっ、とドリンクバーのアイスティーをストローで吸い上げながらクダを巻く。その眉はつり上がり、目はもうすっかり
業務連絡、業務連絡。ドリンクサーバーに誤ってアルコールが混入しているおそれあり。至急チェック願いまーす。
「ええ、ええ! どーせ私はロクに料理できませんよ! 掃除も洗濯も手伝ったことありませんよ!!! 家庭科2ですよ! 英語は3ですよ!! ちなみに5は体育だけですよ!!!」
な、なんか求めてもいない情報が次々と開示されていく……。
これが本当に酒の席なら、言ったほうも聞いてたほうも、翌日には「飲み過ぎちゃって覚えてませーん」みたいな
「あんたはどうなのよ、三前」
「ひゃ、ひゃい。どう、とは?」
ギロリン、と上目遣いに睨まれて思わずどもった。
「あんたもどーせ、私のこと何もできないダメな女って思ってんでしょ?」
ダンッ、と空のグラスをテーブルに叩きつけるように置き、そのまま突っ伏す宇津科さん。
どこだここ? 地方の盛り場の裏路地にあるスナックか?
……ねえマスター、この子にタクシー一台お願い。
「そんなことあるわけないじゃない。宇津科さんが相手にしてくれること自体、ボクにとっては奇跡なのに」
ちょっとハードル高めのカミングアウトを含んだボクの言葉に、宇津科さんが不審げな目を向けてきた。
「なあにそれ。どういうこと?」
そう問われても、本人に向かって説明するのはなかなか難しい。
ダメな女の子どころか本来、宇津科さんはボクにとって高嶺の花と言うべき存在だ。そもそもこうして二人きりでお茶を飲んでいることがもう神様の
明るく華やかで、(梶田を除けば)誰とでも気さくに話せる、この世界の中心寄りにいる女の子。
本人はヒロ姉に対する劣等感で落ち込んでいるみたいだが、つい先月まで中学生だった女の子の比較対象があれでは、いかにも分が悪いのは当たり前。そもそものレギュレーションに問題があるってものだ。
「ええとつまり……。ボクから見たら宇津科さんはむしろ、憧れというか、手の届かない人というか……」
これほど落ち込んでいる相手を目の前にしているのでなければ、とてもじゃないがこんなこと恥ずかしくて言えない。ていうか、あまりの照れくささに最後まで言い終わることができなかった。
「おかわり、アイスティーでいい?」
照れ隠しで席を立つために、宇津科さんの右手に握られたグラスに手を伸ばす。
けれど、グラスが宇津科さんの手から抜けない。どうやらボクに奪われないよう、グラスを持つ手にそっと力を加えているみたいだ。
……?
戸惑って宇津科さんの様子を窺うと、じっとボクを見つめる目と視線がぶつかった。
一秒か、二秒か。
何も言わずにボクの目を見つめる宇津科さん。
やがてゆっくり身体を起こすと、ベンチソファーから腰を上げながら口を開いた。
「あたしも一緒に行く」
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