過保護お姉さんの戦い ~vs.佳澄篇 15~

「きゃあああぁ!?」

「おわあぁぁぁ!!!」

 ボクと宇津科さん、二人の悲鳴が駅へと続くメインストリートに響き渡る。いったい何事かと、道行く人たちがみな振り向くほどのボリュームだった。

 お、お騒がせして申し訳ございません。ホント申し訳ございません……。

 ボクたちは二人揃って、声がした後ろの方を慌てて振り返った。ここが杜◯町のポストがある小道だったら連れてかれてたところだ。「安心」なんてないところに。

 振り返った先にいたのはもちろん、満面の笑みを湛えたれい……、じゃなくてヒロ姉。まるで風景の一部みたいに、まったく違和感なくそこに立っていた。

 ダークグレーの、ゆったりとしたシルエットのニットにスキニージーンズ。手には長ネギがつき出した生鮮スーパーのレジ袋が提げられている。

 なんだこれ、絵になり過ぎでしょ。

 まるで初々ういういしい新婚ホヤホヤの奥様みたいだ。

 一緒に暮らし始めてから気づいたことだが、ヒロ姉はいつもゆったりとしたトップスを好んで着る。「タイトなのは息苦しくてキライなの」と本人は語るが、真相は別にあることにボクは最近気づいた。

 ヒロ姉がうっかりタイトな服で街を歩こうものなら、あらわになったそのボディラインに道行く男どもの視線が集中するのだ。どうやらヒロ姉、その視線がわずらわしくて仕方がないらしい。

 その証拠に我が家では、暖房をガンガンかけた室内を肌に貼りつくようなデザインのタンクトップ一枚でうろついたりする。

 ヒロ姉、忘れてない? ボクだって男なのよね……。

「二人とも、学校の帰り?」

 どうやら様子から察するに、夕食の買い物の帰りにボクたちを偶然見つけたという状況らしい。

 表情も声の調子も一見機嫌が良さそうだが、ヒロ姉の場合、そういう時こそが一番危ない。

「仲良く並んで歩いちゃって。まるで恋人どうしみたい」

 予想通り、ちく〜りときましたよ。

 ハラハラしながら、宇津科さんの様子をチラリと窺う。ヒロ姉の突然の登場に驚いてこそいるものの、ボクからすでに事情を聞いているせいか、今の言葉にはあまり動揺していないようだ。

「こ、こんにちは、赤城さん……」

 ボクの背中に隠れるように一歩下がりながら、宇津科さんがおずおずと挨拶する。

 まあ「小姑こじゅうと」のフレーズを聞かれてしまっているみたいだし、これは当然の反応だろう。

「こんにちは宇津科さん」

 一方のヒロ姉は小姑こじゅうとと言われたことなんて気にしてないわよー、とばかりにニッコリと笑顔を返した。

 怖いよー。なんか怖いよー。誰かー。

「ところでハルくん、どうしたの? ずいぶん回り道してるじゃない」

 ヒロ姉が宇津科さんからボクに視線を移す。

 ヒロ姉の言うとおりだった。

 学校とボクらの住むアパートの往復ルートからは、この場所はかなりれている。

「宇津科さんと話しながら歩いてたら、いつの間にかちょっと……」

 自然、答えも歯切れが悪くなった。

「どんなお話してたの? 小うるさい小姑こじゅうとの話とか、かしら?」

 いやあぁぁぁーーーーー!!!

 きたあー!!! ものすんごいストレートにきたあぁぁぁぁーーーーー!!!!!

 なんとかごまかそうとするが、タガが外れたようにパカッと開いた口が言うことを聞かない。

 その時、ボクの背中に隠れていた女の子がズイッと前に一歩踏み出した。何か強い意志の込もったような、力強い足取りで。

「わ、私と三前君がどんな話をしてようと、赤城さんには関係なくないですか?」

 そう言い放つ宇津科さんの唇はしかし、そうと分からないほどに細かく震えていた。

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